手紙(ショートショート)
エアメールが届いた。
誰からだろうと裏返すまでもなく、その主の字は記憶に遠くない。
内容は短かった。
「彼女は今こっちにいる。もうしばらく静かにしておいてやれ」
そっかぁ、やっぱりあいつのところに…。
俺は内容を見返すまでもなく、手紙を机の上に放り投げた。
ベッドに足を投げて、横たわる。
あいつは…。
俺はただ思い出していた。
出会った時、付き合ってからのこと、彼女の言葉、仕草。
半年前に彼女はこう言った。
「あなたは誰にでも好かれていいわね」と。
お前こそそうじゃないかと俺は思ったが、その時、言葉の奥を深く読もうとしなかったのは大きなミスだ。
俺の前で他のヤツと話しているのを見ている時の苛付き。
それを同じようにあいつも感じていたのかもしれない。
愛と憎はそうやって共存する。
彼女はその言葉を最後に俺の前から姿を消した。
最初はきっと、いつもの気まぐれだろうと思った。
そのうちひょっこり顔を出すだろうと思った。
だが、あいつは俺だけじゃなく、俺達の前からすっかりその姿を消してしまったんだ。
そう気付いて、知りうる限りの友人に連絡を取った時は、もう遅かった。
誰一人として、その行方を知らなかったのだ。
やっぱり、いなかったんだな。日本には。
今はあっちで元気なんだな。
俺じゃなく、ヤツを頼って旅立ったのだけはショックだが、ちゃんと生きてご飯を食べていてくれるのであればそれでいい。
もう、躊躇い傷を増やさないでくれ。
あいつの細い腕を思い出しながらそう祈った。
赤い血は生きている証拠だと、切り口を見せられた時はぎょっとした。
今もその色は鮮やかに思い出せる。
いつか。
そう、いつかまた会おう。
その時、俺の隣はお前じゃなく、お前の隣は俺じゃなくても構わない。
ただ、もう一度。
俺のために笑顔を見せてくれないか。
窓から見える星空に、そう伝言した。
<END>
2007.3.音和さいる