The graduation(ショートショート)
1700年代のアメリカ。
オレはネイティブアメリカンで、ある部族の長の長男だった。
カッコイイ父ちゃんとちょっと天然だけど優しい母ちゃん、そして大人しい弟がいた。
でも、実際は部族全体が家族みたいなトコもあったけどな。
母ちゃんはいつでも楽しそうに笑っていて、俺達に自然の大きさ、尊さ、素晴らしさを肌で感じさせてくれていた。
父ちゃんは小さいオレを連れて、よく遠乗りに同行させてくれた。
風が気持ちよかった。
束ねた髪がなびくんだ。
弟はまだ小さかったし、怖がりだったから置いてけぼりだった。
あんなんじゃどんな男になるんだか…、いつも母ちゃんにべったりで、オレらのバトルゲームには一切関わろうともしなかった。
だもんで、よく苛められてたな。
「女みたいだ」って。
オレはかばう事もあったけど、歯がゆくて殴りもした。
でも、そうすると母ちゃんが怒るんだ。
「仲良くしなさい」って。
それで一応謝って、よしよしってすると、あいつはにっこり笑うんだ。
すっげ〜可愛くて仕方なかった。
よく星を見た。
空を見た。
雲を見た。
風の流れを見て、生活をしていたからだ。
風を見誤ると、生活に支障が出た。
そして、毎日のように皆で歌って、踊って…。
音という音は、全ての感情の発露であり喜びだ。
子供だったオレらには毎日がお祭りのようなもので、自然とともにあること、それはすなわち日々感謝の生活だった。
ある日、他部族より急襲を受ける。
逃げ惑う一族。
嵐よりも酷い惨劇がそこでは繰り広げられた。
両親は殺され、オレも走り逃げていた川で転んで溺れ死んだ。
まだ6歳だった。
あの守るべき弟を残して…。
あいつはどうなったんだろう?
ただ、それだけが心残りだった。
☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆
そしてオレは今、ここに新たな生を受けている。
どうしてこの時代でここまで「弟」の存在が気にかかっていたのか、その理由もはっきりした。
もはや彼は子供ではなく、今や十二分に自分の足で歩いている。
否、走っているか(笑)
もう、大丈夫なんだな。
オレが心配してやる必要なんて、もうないんだ。
そう納得できたオレは、これで解放される。
後は「私」に受け渡そう。
これからも「弟」が傷に病むことのないように、ただ遠くから見守ることにして…。
そうやって、過去生で関係のあった人物との現在の感情に起因する事由を明らかにできたこと。
これは過去生を知ることが、どれだけ自らの感情の解放に効果があるのかを知るのには十分な出来事だった。
心底確信のもてる(腑に落ちる)関係性を理解したことで、実際私の感情のベクトルは大きく変わってきている。
「弟」への執着が、兄としての執着が嘘のように消えたのだ。
一晩でここまで感情が変わるなんて思いもしなかった。
それどころか、その興味のベクトルは今や全く違う人物に向いている。
彼に抱いていた家族としての情愛とはまた別の感情で。
全くもって、不思議なことだ。
卒業。
そしてまた、新たな旅が始まる…。
<END>
2008.01.音和さいる