ガラクタの願い(ショートショート)
昨夜もお持ち帰りをした。
いつものように左胸につけた社員章が功をなしたようだ。
「男って単純だよね」と言う女も多いが、俺に言わせりゃ「女こそ単純だよな」だ。
ちょっとお洒落な会話でチンケなプライドをくすぐってやれば誰だって落ちる。
まぁ、「俺の手にかかれば」だがな。
事の後で「私達、相性いいと思わない?」なんて、頭をもたげてくるやつがいる。
正直面倒なので、「別に付き合う気ないし」とあっさり返す。
だってそうだろ?
期待させたら後々面倒じゃん。
するとさ、女って感情の生き物だから、「酷い!」って泣く奴やら怒る奴やら物を投げつけてくる奴やら色々。
そこで「ジョークだよ」なんて言って頭を撫でてやると治まったりするんだぜ。
こいつらほんっとバカじゃないかって思う。
だって結局金だろ?
こいつら自分が生きるための金づるが欲しくて、必死こいて媚売ってるんだろ?
自分で生きて稼いでく自信がないから、手っ取り早くいい稼ぎを持っててそこそこ見てくれのいい奴だったらとりあえず行っとこうと思うんだろ?
人生バカにしてやがる。
だから俺はそいつを逆手にとって遊びまくる。
いいじゃん、それで。
一人だけ…いたな。
ただ静かに、「それって寂しくない?」って抜かした奴。
ショートカットが涼しげなそいつは、さっさとジーンズを履くと俺を置いて消えてった。
服を着る間、その動きをなんとなく見ていた。
シャープな横顔にかかるシャギった髪のラインが綺麗だった。
あいつとだったら…うまくいったのかもしれないな。
そこで動かなかった俺は、その程度の奴でしかなかった。
誰かと共に生きるってのは、やっぱり俺には重すぎて。
自分一人で精一杯なのに、その上誰かの人生まで背負わされるなんて真っ平だって思っていた。
俺は怖がりだ。
実際、怖がりだ。
色んな壁にしょっちゅうぶつかるし、かなり不安定だ。
自分が支えなければならない誰かがいたとしたら、そいつは逆に俺の一挙手一投足に振り回されっぱなしになるだろう。
壊れても…責任はもてない。
いつだったか、どうしようもない気分の時、俺のこの魂から全て消滅しねぇかな、と願ったことがある。
何度も、何度も。
でも、一度も叶わなかった。
何のために生きているのかわからなくて、お偉い人に「魂の精進のために生きる」なんて言われたってわからなくて、じゃあ何のために精進が必要なんだ?って話だ。
それが完璧なシステムなら、何でこんなエラーだらけなんだ。
卒業できない学校なんて、終わりのない道なんて、永遠なんて糞食らえだ!!!
だから、誓い合う相手なんて必要ない。
消えたい時に消えられなくなるしがらみなんて必要ないから。
お嬢さん、恋する相手を探すなら、変に金があったり見てくれがよかったりする奴よりも、単純に生きる気力のある奴にしなよ。
媚売って頑張ってたあんたらの方が、生きてくのには向いてるのかもしれねぇな。
あんたらの願いは、きっと叶うさ。
俺は死に場所を探している。
死に場所を探しているんだ。
…あ、このお茶旨い。
熱めに入れていたお茶がほどよく飲み頃で、すんなり咽喉をすり抜け胃に落ちる。
舌に残る温度が胸にも響く。
3歩歩くと考えていたことを忘れる、俺も鳥並に単純だった。
<END>
2008.03.音和さいる