〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜前書き、リレー小説を書くにあたって〜〜〜〜〜〜〜〜〜
久しぶりの小説です。いやあ、キーボードを打つ手にも汗を握り、原稿を考えている んですが、どのような話になるかはわかりません。でも行き当たりばったり、それが リレー小説の醍醐味でしょうか。やはり、リレー小説は複数の人で書くためにどうし ても一定の方向性をもてない、そういう面があります。しかし、そこがリレー小説の もつ面白さでもあります。一応、小説である以上話のつじつまは合わせなければあり ません。その話のつじつまを合わせ、それからいかに相手の思ってもいない展開に 持っていくかが勝負のかぎです。そうやって相手の裏をかくことで小説は非制御、非 予想、そして自由なものになっていくのです。これは一種の勝負です。試合です。し かし勝ち負けはありません。永遠に続くいたちごっこみたいなものです。勝ち負けが ついてしまえばそこで終わりですから。このリレー小説もいつかは終わるときが来る かもしれません。それはいつ来るかわかりません。リレー小説は非制御、非予想です から。しかし、ほかの勝負と違うところは、誰かが勝ち、誰かが負けて終わるなんて ことはありません。だから私は思いついたままに書き始めます。つじつまあわせぐら いはするかもしれないけど推敲なんかは絶対しません。だって面倒くさいから(笑) 本心はリレー小説が持つ自由さ、書いている本人も先の展開が見えない、という感覚 を味わいたいからです。俺にしては前置きが長くなりましたが、それでは始めます か。 BY夢生人
[0001] 朝8時、良平は目覚めてからどうしようもない倦怠感に襲われた。 (なぜ、また意味のない一日を過ごさなければならないのか。) 良平はしぶしぶパジャマから制服に着替え、台所で皿を洗っていた母の加奈子に挨拶 もせずに学校へ向かった。 広田良平、17歳、市内の公立M高校に通う二年生、成績は普通だ。父の博は中堅会 社のサラリーマン、母の加奈子とはお互い27歳のときに結婚した。良平には兄弟は いない。いわゆる一人っ子だ。この、ごく一般的で平凡な家族はどこにでもあるだろ う。しかし、良平はこの単調な毎日に飽き飽きしていた。 毎日、朝起きて、学校に行って、友達とたわいのない会話などをして、適当に授業を 受けて、家に帰り、テレビを見ながら飯を食って、風呂に入って寝る。大体毎日がこ のパターンだった。この生き方に何の目的、意義を見出せなかった。この日も変わっ たことといえば、宿題を忘れて先生に小言を少し言われたぐらいだ。 また家に帰っていつもの行動パターン。 (もううんざりだ、何か面白いことはないかな。) そう思って布団に入りいつのまにか寝入ってしまうのも良平の日常だった。 そういう日々を過ごしてきた良平が、どこか自分の知らないところへ行きたいと思っ たのも不思議ではなかったかもしれない。その考えは彼の頭の中に突然にして出てき て彼を行動に移させた。 あるよ、こっそりと荷作りをしていた彼は、去年のお年玉の残りの金16000円あ まりを財布に入れ、多少の書置きを彼の机の上に残して駅に向かった。夜行に乗り、 200kmほど離れた県に行くつもりだった。途中のコンビニで夜食を買い、彼は列 車に乗り込んだ。良平は実は一番安い切符を買っていた。切符を調べに来れば便所に でも隠れ、出口の改札は強行突破するつもりだった。一日でもいつもとは違う体験を するために無駄な出費は避けたかった。 良平は、席で夜食を食べ、それからいつもと違う日常に喜びを感じていた。 [0001] [0002] 一方場面は変わって、良平の家からはそんなに離れていない公園・・・ 乱れた呼吸が夜の空気を揺るがしている。 和也は手に握り締められた一万円札を凝視していた。一万円札は血で汚れていた。 (この街にいたらつかまってしまう・・・どこか遠くに逃げよう。200Kmぐらい は逃げた方がいいなあ・・・いや、もっと逃げよう。3000万あれば何とかなるだ ろう。) 和也はアタッシャーケースをつかんでまた走り出した。夜の駅へ向かって全速力で走 りつづけた。誰かに終われているようなそんな感じがする。犯罪を犯すとこういう精 神状態になるのか、と和也は微笑を浮かべた。 (警察め、捕まえられるものなら捕まえてみろ!) 和也は行く先とは別の方向に向けて血のついたジャケットを投げ捨てた。手袋と凶器 も拡散して捨ててある。夜のしじまを駆け抜けながら和也は高校生活を思い出した。 坂本和也、成績は優秀だった。友達はいたが親友と言えるものはいなかった。友達と 言う定義さえ危うかった。誰も自分を必要としなかったし、誰も自分を煙たがりはし なかった。 ある人物の言葉で言い換えると・・・空気のような存在・・・まさにそのとおりだっ た。 生活態度はいたってまじめだった。別に自分ではまじめだとは思っていない。 ただ単に先生や親を敵に回せば面倒だと言うことを知っているだけだ。 だから、まじめであっても善人ではないし、まじめであっても優しくはない。 ただそこにゆるがせない自分と言うものがあったからこそおとなしくしていたのだ。
切っ掛けはなかった。だれがトリガーを引いたというわけでもなかった。 ただそうしなければいけないような使命感だけが体を突き動かした。 こういうのを「神の声」が聞こえたと表現するのかもしれない。 気づけば店内は血まみれだった。別に興奮してはいなかった。的確に急所を刺し全員 を皆殺しにした。それでも自分は悪人だとは思わなかった。 幸いなのか、計画的なのか覚えていないがほとんど目撃はされなかった。
和也は本当にあれが現実だったのか疑わしく感じてきた。 今、あの出来事を現実のものだと語ってくれるのは右手に握られた3000万円の重 さだけでしかなかった。 和也は一番遠くまでの切符を買い列車に乗り込んだ。 [0002]
[0003] 午前一時、いつのまにか寝入ってしまっていた良平は、自分の真後ろの席に乱暴に 座った人のせいで目が覚めた。そいつは激しい息遣いをし、時折何かつぶやいてい た。 (何なんだよ、こいつは?)良平は気を取り直して眠ろうとしたが、その男のつぶや く声が妙に耳に入ってくる。 「・・・きって・・・・やる・・。逃げ切って・・やる。」 徐々にはっきりと聞こえてきたその声は、突如良平の心に訴えかけているように聞こ えた。 (そうだ、もし俺がつかまったらまたあの単調な暮らしに戻らなければいけなくな る。俺はもうここまできたんだ。後戻りはできない。あの退屈な日々から逃げ切って やる。絶対に。) そう心に誓ったとき、突然列車内は騒がしくなった。 「そっちにはいたか?」 「いやいない。あとはこの号車だけだ。」 「じゃあ、この号車に潜んでいる可能性が・・・。」 「ないとはいえないだろう。」 良平はこの言葉に心臓をつかまれた思いがした。 (もしかして俺のキセルがばれたんじゃ・・・。) そのとき、ちょうど列車は駅のプラットホームに入っていてかなりスピードを落とし ていた。良平は扉が開くのを待っていたんじゃつかまると思った。 (どうしよう・・・・・そうだ、窓だ) そう思ったかと思うと良平は窓を開け、駅に飛び降りていた。しかし、良平が降りる よりも前に、自分の後ろに座っていたやつが飛び降りていた。良平とそいつはちらり と顔を合わせたが、そいつは走って逃げていった。 そいつは身長170cmぐらいの自分と同じぐらいか、もしくは2〜3歳上ぐらいの 男だったが、良平はそいつの目に深い印象を覚えた。鋭い目つきでこちらを見たが、 彼の目は、深く、そして憂いを含んでいた。 (何者だ、あいつは?)良平はそう思ったが後ろからの「待て〜!」という声にとっ さに身を隠した。 しかし追ってきた男たちは先ほどの男を追いかけ、良平には気がつかなかったよう だ。 取り合えず良平はその男たちが駅から出て行くのを見計らって、15分ぐらいした後 で彼も駅をこっそり出て行った。
午後三時半、良平はコンビニでカットバンと少しの食料を買っていた。窓から飛び降 りたときにちょっとした擦り傷を負ったからだ。 (今ではどこにでもあるコンビニでいつでもなんでも買えるんだな。) 良平は半ば感心しながらおにぎりをほおばり、街を歩いていた。 (さて、今からどうしようか。) そう考えた彼に唐突に眠気が襲ってきた。おそらく、窓から飛び降りるという彼に とってはおおよそ非日常な体験をしたことと、少し満腹になったことで彼に睡魔が 襲ったんだろう。 良平は、ごみステーションに捨ててあったダンボールを持ってビルとビルの隙間に向 かった。 [0003] [0004] 和也は相変わらず暗闇を駆け抜けていた。先ほど列車から飛び折れた時にいためたわ き腹がうずく。しかし、足を緩めることはなかった。痛みが逆に快感にも感じられ た。自分を苦しめることに何らかの浄化を感じていた。 (おかしい・・・発見されるのが早すぎる) (俺の犯行は完璧だったはずだ) (なぜ警察が列車の中で俺を捜していたんだ?) 和也は走りながら考えと記憶を整理してみた。 ふと、興奮状態だったため列車に乗り込むときに警察に呼び止められたとこに気づか なかったのではないか、と思った。 あんな真夜中にさまよっていたのだから警察に呼び止められるのはあたりまえであ る。 (別に強盗犯として俺を追いかけていたわけじゃなかったのか・・・) しかし、つかまったとあっては事情を聞かれるだろうし結局は犯行がばれてしまう。 そう考えた和也はひたすら走りつづけた。 (この辺まで来れば大丈夫だろう) 和也は自動販売機の前で息を整えようとした。ビールでも買おうかと思ったが深夜の アルコールの自動販売機は免許証を差し込まないと買えないようになっている。和也 は自分が免許証を持ってきていないことに気がついた。 (ん、免許証を忘れたか・・・まあ18歳の俺にはもともと酒は買えないけどな・・ ・) 和也は仕方なくコーラを買った。コーラを一気に飲もうと思ったが無理だった。途中 まで飲んだところでまた見つかってしまった。 「こら、こんな時間に何をしてるんだ。」 答える暇も考える暇もなかった。一瞬で和也は逃げ出した。今度はさっきとは違う警 察たちである。 和也はまださほど回復していない体力でまた走り出した。 (追いつけるものなら追いついてみろ!) 路上を走りつづけた。とてもすぼれた寂しいビル街である。 和也は入り組んだところへ逃げ込もうと思った。 ビルとビルの隙間にむかって走った。 [0004] [0005] 和也はビルとビルの間に入り込み、しばらくあたりの様子をうかがった。どうやら追 手の警察は振り切ったらしい。 「ふーっ、どうやら逃げ切ったようだな。さて、これからどうするかな。」 和也は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。 「いつまでも悠長にここにいるわけには・・・。いつかは警察にも指名手配されるだ ろうし。」 和也は痛めているわき腹に手を当てた。 「どうやら骨は大丈夫なようだな。今病院に行くのはやばいからな。そんなことした らそれこそ捕まってしまう。」 和也は腰をおろし、アタッシュケースを彼の横に置いた。 (このなかには3000万円入っている。この金をどうしようかな?) 和也はアタッシュケースを凝視しながら考えた。 (・・・眠くないな。精神状態は別に高ぶっているわけではないのに。) そのとき、ビルの隙間から不意をついたように人影が現れた。 「誰だ。」 和也は思わず叫んだ。
「誰だ。」 その声に良平は不意を突かれた。まさか自分以外に人がいるとは思わなかったのだ。 「答えろ、誰だ、警察か?」 その声は明らかに大人の声ではなかった。良平は、その声の主は自分と同じぐらいの 年のやつだということを察した。 「僕は警察ではありません。ちょっと訳ありで今、家出をしているものです。」
和也は、とりあえず相手が警察でないことに一安心した。しかしまたすぐにこう思っ た。 (こいつは俺の目撃者だ。こいつを今のうちに殺さないといずれ俺がつかまる因子に なるかもしれない。) 和也はポケットに忍ばせていたナイフを握り、すっと立ち上がった。そして一歩歩み 寄ろうとしたそのとき、表通りをパトカーが巡回しているのが見えた。 (そのパトカーからは暗くてこちらの様子は見えないだろうが、変に物音を立てると 見つかる可能性がある。第一今そこにいる少年を殺しても、死体はどうする。俺がこ の街に潜んでいることは、少なくとも今は悟られるべきではない。) 瞬時にそう考えをめぐらした和也は、自分も家出をしているということにして、何と かその場をやり過ごすことに決めた。 [0005] [0006] 「そう言えばお前、俺と同じ列車だったなあ。俺も家出している。」 和也はそう言って場をとりもったが、良平は和也が一瞬見せたナイフの鈍い光を見逃 してはいなかった。 (こいつは危ないな・・・列車の中でぶつぶつ言っていたのもこいつだ。俺の本能の ようなものがこいつから逃げるように訴えかけている。) 良平は一瞬死を意識した。 刹那良平は走り出した。和也から逃げようとしてビルの隙間の奥へ奥へと走り出し た。 「お、おい!なぜ逃げる?」 不意をつかれた和也はひるみながらも良平を追いかけ始めた。 足の速さは和也の方がやや速い。 あと少しで追いつかれてしまう・・・ 突如、和也はわき腹に痛みを覚えた。うずくまってしまった。 夜の摩天楼を駆け巡りながら良平は和也に何か運命的なものを感じずにいられなかっ た。 (知らないやつだったが、ずっと昔から知っていたような気がする。また会うことが あるだろうか?あいつも逃げ出してきたような感じだったけど・・・) 良平は本能的に感じていたのだ。 和也が平凡で退屈な日常を打破してくれる大きな存在であると言うことを・・・
そして・・・2人はそれぞれの朝を迎えた
これからはじまる壮大なスケールと旋律を前にして
この出会いはほんの小さな引き金に過ぎなかった・・・
〜第一章 完〜 [0007] あたりがだんだんと明るくなり、とりの鳴き声が聞こえてきた。良平にとって長い夜 が明けた。 (それにしてもあいつはなんだったんだろう。あいつはどうやら俺と同じ町からきた みたいだな。) 良平はさっきコンビニで買ったアンパンを食べ、牛乳を飲みながら考えた。 唐突な、しかし運命的な出会いだった。良平は朝食を平らげ、歩き始めた。 今日一日、良平はこの街がどんな様子なのかを歩き回って調べることにしていた。土 地感を養っておくことは大切だと思ったからだ。そしてもう一つ大きな目的、これか ら寝泊りぐらいはできるような場所を見つけておきたかったのだ。良平は大きな道路 に沿って歩き出した。 そうやって良平はいろいろ街を徘徊して回った。いつのまにか彼の持っていた時計の 時刻は昼の1時を指していた。 (もうこんな時間か。しかし、だいぶこの街の地形がわかったな。) この街は、どうやら工業で一時期は栄えていたようだ。しかし、相次ぐ不況で倒産し て、今は廃工場となった建物が街の北のはずれにいくつか見られた。街全体にもも、 どこかその陰鬱な空気があった。古臭い造りの商店街、ごみの散らかっている道路。 不意に、後ろから肩をたたかれた。良平は驚いて後ろを振り向くとそこには制服を着 た見知らぬやつがいた。そして良平に声をかけてきた。 「おい純、今日何学校サボってんだよ。そういう俺も早引きだけどな。」 [0007] [0008] (純?俺のことを言っているのか?) 「どうしたんだ?驚いた顔して。」見知らぬ男の顔に一瞬懐疑の表情が浮かんだ。 (ん?こいつは俺を誰かと勘違いしているのか?そうらしいなあ・・・どうしよう。 これは面白く興味的な機会だ。こと立場はいろいろなことに利用できるかもしれな い。しかし、うかつな行動や発言をしてしまえば簡単にボロが出てしまう・・・こん な時の一番の対処法は・・・) 良平は相手に不信感を与えぬよう瞬時に状況を判断し、適切な対処法を導き出した。 なんと、この間0,2秒であった。まさにピッチャーからボールがキャッチャーに届 くまでの短時間である。 「今日はちょっと機嫌が悪いんだ。あまりかまわないでくれ。」 良平は精神的不安定を装うことによってその場を切り抜けようとしたのである。 「あ、そうだったのか。何かあったのか?」 「いや、別にいいんだ。それより話があるからあとで俺の家に来てくれないか?」 「ああ、いいよ。わかった。これからどうするんだ?」 良平はあたりを少し見渡した。 「ん、いや、ちょっと寄るところがあるんだ。」 「そうか・・・」見知らぬ男は明らかに疑っている目であった。 それは良平のこれからの行動への疑問であり、良平という人物への疑問ではなかっ た。彼は良平を純だと信じきっていた。
(純と言う立場を利用するためには、純と言う人物を調べる必要がある。まずは彼の 家に行かなくては・・・) 良平は純の友達であると思われる見知らぬ男のあとを追った。 ゲームセンターに言った後、何度か彼の自宅であろうと思われる家に帰り、またゲー ムセンターへ行った。じつはエセ純との約束を忘れたのではないかと思われたが午後 10時ごろになってゲームセンターを後にし、自宅とは別の方向へ向かい始めた。 良平のとって尾行というものは初めての経験であった。 良平は今までとはちがう日常を確実に歩み始めていた・・・
純という人物の家であろうと思われる建物の前までやってきた。 インターホンの音が夜のしじまにこだまする。 2、3度インターホンを押しただろうか 「あれ、もう寝ちゃったのかな?まあ、いいや、明日にするか」 男はその場を去ることにした。 (いかん、こっちへくる) 良平は電信柱の陰に隠れた。心臓の音が向かってくる足音をかき消す。 見つかるかもしれないと言う恐怖よりもむしろ、真新しい経験をしていると言うこと が良平の心を興奮させた。 「それにしてもあいつ、自分の方が呼び出したくせによ・・・ぶつぶつ」 なにやら言葉を吐き捨てながら目の前を去っていった。 良平はとっさに電信柱を上って塀を越えた。 (これはもう犯罪だな・・・) 良平は苦笑した。学校では特におとなしかった彼である。犯罪なんて小さい時に犯し た万引き以来のことであった。 良平は純の家だと思われる敷地に侵入したのである。 窓の鍵はかかっていなかった。 良平はほとんど勢い任せで家の中に進入した。 インターホンに出なかったことより住民がみな深く眠っているとタカをくくったので ある。 良平は非常に興奮していた。 純と言う人物を調べるとはいえ、彼の家に侵入することは特に意味のない行動である ことを考えてはいなかった。 心臓は激しく鼓動しているのに対し、呼吸は驚くほど静かである。 目の前は真っ白になっていたが、行動は確実だった。 何一つ音を立てることなく純の部屋を探し二階へ向かった。 今の彼に純の部屋へ行くことの意味を問いただすことは不可能だった。 (静かだ・・・静か過ぎる・・・気配も感じない・・・) 奇妙な静かさが逆に良平の昂ぶった精神を漸次落ち着かせ始めた。 分析が始まる。 (こんな時間にさっきの男はインターホンを連射した。もしかしたら家族は現在いな いのかもしれない・・・) 一瞬の間に仮説が立った。頭が回る。自分の考えを信用していた。 良平は自分の能力に驚いていたし、酔っていた。 そして 階段を上って二つ目のドアを開いた時だった
月明かりが窓の外から漏れていた
零れ落ちる月光を浴びてぶら下がっていた死体
その表情は驚愕に震えた自分の顔だった
良平は崩れ落ちた。 しりもちをついた。
中に浮いた足元の下には一通の手紙が祭られてあった。
「遺書」
[0009] 良平はしばらく愕然としていたが、やがて落ち着きを取り戻すと、ゆっくりと遺書を 広げた。遺書には次のように書かれてあった。
『お父さん、僕は学校でいじめに会っていました。でも、先生に行っても取り合って もらえませんでした。お父さんは仕事で忙しくて、僕の面倒をあまり見る時間がな かったし、お父さんに心配をかけたくなかったので、お父さんには黙っていました。 でももう限界です。あのいじめにはもう耐えられません。僕は天国のお母さんの下へ 旅立ちます。さようなら。そして、今まで育ててくれてありがとう。』
その遺書を読んで、良平の頭に悪魔のような考えが浮かんだ。 (こいつの死体をどこかに埋めて、俺がこいつのこれまでの生活を送ってみるという のはどうだろう。そうすれば、これから俺の新しい生活が始まる。) 早速良平は首をつっている死体を下ろした。 (それにしてもこいつ俺にほんとに似ているな〜。) そして、死体を床に置いた瞬間、死体の手から何かが転がり落ちた。 (ん、なんだ、これは?何かのバッジかな?) それは何かの階級を表すような、例えば、警察が階級を表すためにつけている、そん なバッジだった。 (なんだろうこれは?警察のバッジとは違うみたいだし。まあいいや。) そう思って良平はバッジをポケットにしまった。しかし、なんだか変な違和感を良平 は感じていた。 (なぜ、純というやつはこんなバッジを握ったまま自殺したのか?え、もしかして !) 良平はもう一度遺書を拾って読んだ。そして部屋の中を見回した。そして、良平の変 な違和感はますます募った。 (何でこいつは遺書をワープロで書いているんだ?もしこの部屋にワープロかパソコ ンがあるとしても、遺書なんかには気持ちがこもるはずだから普通は手書きで書くも んだろう。しかもこの部屋にはそんなものはない。それならなおさらじゃないか。 やっぱり、こいつは殺されたんだ。しかも自殺に見せかけて。) 良平は半ば直感的にそう悟った。そして、このことに巻き込まれると厄介なことにな ることも。 良平はその家をすぐに立ち去った。しかし、急いでいたために、バッジと遺書を持っ てきてしまった。
まだ明るい街の中を良平は歩きながら考えた。 (なぜ純とか言うやつは殺されなければいけなかったのか。それに慌てて持ってきた このバッジは?) そのとき、良平の目の前ほんの数センチのところに看板が落ちてきた。良平はびっく りして上を振り向くと人影がはっきりと見えた。 (やばい、今度は誰かが俺を殺そうとしている。) 良平は走った。走りに走った。そして5分も走ったころ思わぬ人物と出くわした。和 也だった。この街で唯一の知り合いであるといっていい和也だった。良平は和也に 会ったことでなぜだかほっとした。そして和也に助けを求めることにした。 「久しぶりだなぁ、ところで、聞いてくれよ。」 和也は、昨日逃げられた良平が親しそうに話しかけてくることに疑惑の感情を抱いた ようだった。しかし、話をじっと聞いていた。。 良平は、あれから彼のしたことを詳しく、すべて和也に話した。そして、純の手から 落ちたバッジを和也に見せると、和也の顔がこわばった。 「どうしたんだ?」 良平は、こわばった顔の和也に聞いた。 「・・・おまえ、やばいことに巻き込まれたな。」 「えっ?」 良平は驚いた。 「俺も今日、この集団との事件に巻き込まれたんでな。いや、事件といっても表には 出ていない。あれからの俺の出来事を聞かせてやる。」 そういって和也は語り始めた。 [0009] [0010] 和也は良平を追いかけたがわき腹の痛みと比例して2人の距離は広がっていった。 (なぜ逃げたんだろう。俺が殺人犯だってことを知ってるのか?いや、そんはずはな い。やつは見たところ頭の回りそうなやつだ。俺が危険な人物であると言うことを察 したんだろう。) 和也は霞み行く視界の中で良平の背中を追った。そして、姿が見えなくなると同時に ビルの谷間にて眠りについた。
日が明けると和也は近くの喫茶店に入りモーニングセットを注文した。 逃避行を続けているものの金に困ることはない。贅沢な朝である。 コーヒーを口にし、新聞を広げた。 『強盗事件 3000万円が盗まれる 犯人は今だ逃亡中』 どの一面も自分の事件で盛り上がっている。 (犯人は今だ不明か・・・) あたりまえだと和也は思った。長い間鍛錬に計画立てた犯行である。そう簡単につか まるはずがないと思った。手口もそんなに凝ってはいない。単純な犯行ほど推理が難 しいものなのだ。 和也は店を出ると適当に歩いてみることにした。 一帯は廃工場が多く、寂れてしまっている。 現在の若者の心を象徴しているようであり、何よりも自分の心境に近いなあと和也は 思い、苦笑した。 1キロほどあるいたところで和也は異変を感じた。 人通りの少ないこの町である。尾行されればなんとなく気づくものなのだ。 和也はカーブミラーのあるところまで歩いて行った。 角度を調整して自分の後方を見てみると二人の黒い影が見える。 姿までははっきり見えないが首元に光るバッジのようなものだけがはっきりと確認で きた。 [0010] [0011] (しかしなぜ俺が尾行されなければいけないのか。こいつらは俺が強盗したことでも 知っているのか。) とりあえず和也は後ろから尾行してきたやつらを撒こうと思った。和也は角を曲がり 走り出した。そして狭い路地、入り組んだ道を走り抜け、大通りに出た。後ろの様子 を確かめると、どうやら振り切ったようだ。 和也はとりあえず安いホテルを探すことにした。尾行されたりしたんじゃ落ち着いて 眠ることができるとこを探したほうが安全だという配慮からだった。それにただなら ぬいやな予感がしていたのだった。 (もしかしたら俺を尾行してきたやつらは俺が三千万を持っていることを知っていた のかもしれない。しかし警察すらあの強盗犯が俺だということを知らないはずだ。し かし、ほかに俺が尾行される理由がない。だとしたら奴らはどうやって俺が三千万を 持っていることを知ったんだ?) 和也は気分を落ち着かせるために喫茶店へ行き、一番隅の席に座りコーヒーを頼ん だ。 (朝も俺は端っこで朝食を食ったなぁ。確かこんな位置だった。そして朝飯を食った 後、支払いの金を用意するためにアタッシュケースから一万円札を取り出した。もし かしてそのときにアタッシュケースの中身を誰かに見られたんじゃ?誰かがこの中を 一瞬でも見れば、相当な額の金が入っていることに気がつくだろう。しかし俺はかな り注意していた。周りのやつには誰も気づかれなかったはずだ。) 和也はコーヒーが運ばれてきたのでそれに口をつけた。そしてふと上を見上げたと き、和也の目には防犯用の鏡が映った。そのとき、和也は自分がこの鏡によって丸見 えだったことに気がついた。 「・・・俺としたことが・・・何たる不覚・・」 和也は思わずそうつぶやいてしまった。そして、コーヒーを一気に飲み、またホテル 探しに出歩いた。 しばらく歩いた後、急に後ろから呼び止められた。 「アナタハカミヲシンジマスカ?」 「はぁ?」 [0011] [0012] 「カミハアナタノチカラニナルデショウ。」 よく分からない外国人だった。 この俺から気配を察知されずに背後に回ったところを見ると只者ではないなと和也は 注意した。 「ニーマルハチ・・・」外国人はそう耳打ちすると和也に聖書を手渡しあっという間 にどこかへ消えてしまった。 (なんだったんだ?208?) 和也は歩きながら聖書を開いてみた。 (208と・・・) 指伝いにページを探った。208ページ。表題には『時空と精神次元の干渉と共鳴に ついて』と書かれてあった。偽者の聖書である。 そのページに一枚の紙切れがはさまっていた。 『後ろを振り返らずに読み続けなさい。ここから赤い建物が見えるはずです。そっち に向かって歩きなさい。やつらはまだ襲ってはきません。途中で交差点に出るはずで す。そこを右に曲がって全速力で走りなさい。グッドラック!』 読み終えると和也は聖書を閉じた。後ろを見てみたい衝動に駆られたが思いとどめと りあえず赤い建物に向かってみた。その間に考えを整理しようと思った。 (どういうことだ?さっきのやつらがまた追ってきているのか?あの紙切れは味方な のか?なぜ助けてくれる?もしかすると俺の金とは関係のない事件なのか?) 考えている余地はなかった。計画高い和也だが良平ほどの思考スピードは持っていな いのである。和也は判断力、良平は決断力と言ったところである。やがて2人が手を 組めばどんなことになるものやら・・・ 考えているうちに交差点までやってきてしまった。 「ええい、ままよ!」 右に向かって和也はスタートを切った。松井稼頭夫もおどろくスタートである。後ろ の方でなにやら走ってくる足音が耳にかかる。後ろは振り向かない。どうせ、2塁送 球は間に合わない。 今にもスライディングをしようかと思ったその時、目の前に黒のベンツがやって来 た。 「早く乗りなさい!」 中からは女性の声がした。 [0012] [0013] 和也は一瞬戸惑ったが、後ろを振り返ると和也を尾行していた男たちが追ってきてい る。和也はベンツに乗り込んだ。ベンツはスピードを上げて、あっという間に男達の 姿は見えなくなった。 和也は息を整えて横に座っていた女に尋ねた。 「あんたらはいったい何者なんだ?そしてあいつらは・・・・・」 「あいつらはこの街の裏組織みたいなものよ。あいつらは『カバディ普及委員会』と して活動を行ってるの。それはもちろん表でだけどね。裏ではあいつらは殺しから大 麻の取引、臓器の密輸、ゆすり、その他にもあらゆることを働いているわ。あいつら には警察も手を出せない。だから私たちはあいつらを法の力ではなく、自分たちの手 で潰すしかないのよ。そのために私たちは活動しているの。」 「後、どうやってあんたらは俺が狙われているということを知ったんだ?」 「それは簡単よ。『カバディ普及委員会』の中に私たちのスパイを送り込んでいる の。だからあいつらの行動なんてすぐにわかるわ。」 和也はこう思った。 (厄介なことに巻き込まれたな。でもしばらくはこいつらの世話になったほうが得策 そうだ。) 突然車が止まった。和也は窓から外を見た。どうやらここは廃工場の中のようだ。 「ついてきて。」 女に案内され、階段を下った。そこには古びた扉があった。女は二回ノックをした。 すると中から声がした。 「新聞は取らないよ。」 「今日はいい天気ですね。」 「明日は雨が降りそうだけどね。」 「流しそうめん。」 こういう奇妙な言葉のやりとりの後、扉の鍵が開く音がした。おそらく合言葉なんだ ろう。 そうして和也は女に連れられて、扉の中へと入っていった。 [0013] [0014] 扉を開けたのは若い男だった。一見普通の青年のようだが、和也はかなり危険な雰囲 気を感じていた。 扉の中は廃工場にしては綺麗になっていたが、所詮は廃工場、クモの巣が散乱してい た。 そんなことを考えながらキョロキョロしていると、例の女が、 「その辺に座って。飲み物でもどう?」 と、冷蔵庫らしきものを開けながら言った。 「い、いや、別に要らない。」 今日はいろんなことがあって本当に喉が渇いてないということもあったが、 身元も知れないやつの差し出すものを口に含む気にはなれなかった。
和也は部屋の中央にあるソファーに座り、もう一度部屋の中を見回した。 天井の骨組みが丸見えの部屋の中には、一般家庭にあるような家具が綺麗に並べられ ていて、女の組織のメンバーらしき奴らがいる。 まずは、例の女。冷蔵庫から皆に飲み物を配っている。 そして扉を開けた男。背後の扉の前から動かずに、こちらをじっと見ている。 (なるほど・・・・逃げられない、とうことか。) 奥の方では、小太りの男が何か作業をしている。 (ん・・・・?) 和也は不思議に思った。たった3人だけなのである。 「メンバーはこの3人だけなのか?」 和也は率直に聞いた。 「さあ、どうかしらね?そう思う?」 女は悪戯っぽい目をして言った。 「ふん、秘密主義かい・・・・」 (こういう相手には何度も質問しても無駄だろう。質問を変えるか) 「率直に聞こう。俺を助けたのは何故だ?あんたらが奴等と対立してることは分かっ た。しかし、だからといって俺を助けるのは何故だ?この金が奴等に渡ると困るから か?」 女はゆっくりと和也の向かいのソファーに座って答えた。 「・・・・・・・・やつらにとっては3000千万なんてのは、はした金よ。問題は そんなことじゃないの。問題は・・・・・」 そこまで言った後、女の目線が和也の後ろにずれた。 「やばい!!」 ゴン!! 後ろで扉の前にいた男が、いきなり後頭部を叩いた。 「うっ!・・・・・」 和也はうめき声をあげソファーに倒れた。
「いきなり何するのさ!!」 女が若い男に叫んだ。 「こうした方が早いだろ?」 「そんな問題じゃない、もしもこいつがすでに気づいて隠していたらどうするんだい !?」 女はヒステリー気味にさらに叫んだ。 男は冷ややかに言った。 「こいつの顔見てみろ。こいつがそんなに賢そうに見えるか?まず気付いちゃいない さ。ヒステリーになるなよ。」 「でも・・・・・!」 女の声を遮るように男は言った。 「万が一、気付いていたとしても脅して聞けばいいだけだ。違うか?」 「そ、そりゃあ、そうだけど・・・・・。」 (・・・・・・・・・・アレのことか?) 実は、和也は女の目線に気付いたおかげでなんとか気を失わずにすんでいた。 (しかし、あんなものが何故・・・・。まあいい、このまま聞いていればその謎も解 けるだろう。) 「まずは調べようぜ?・・あ、・・ると・・は思・・け・・な。」 「分か・・た。・・い!・・ま・・・・・・・・。」 (・・・・ん?聞こえにくいぞ?・・・・・・・・血か。) 和也の耳は自分自身の血で聞こえにくくなっていた。 (ちいっ!ついてない。だが、聞こえなければ気絶をしているふりをする意味がない ぞ・・・・。) 和也は耳につまった血を取ろうとした。その時。 ギシ!! 古くなっていたソファーが悲鳴を上げた。 (・・・・・・! しまった!!) 「何だ!?」 若い男が気付いたようだ。 (クソッ、仕方ない。逃げるしか・・・・・) 和也はそう思い立ち上がろうとした。が、それと同時に背中に激痛が走った。 「グアッ!!?」 薄れていく視界の中で和也が最後に見たのは、スタンガンを持った小太りの男だった ・・・・・・。 [0014] [0015] 目を覚ますと和也はソファーの上にいる自分に気付いた。 無事である自分に気付くよりも先に、自宅の自分の部屋の自分のベッドの 上で目覚たような錯覚を覚えた。 あたりを見渡すと、和也は鮮血の海を目の当たりにした。 先ほどまで嫌悪な視線を自分に向けていた若い男と小太りの男の死体が そばに転がっていたのだ。 (誰かいる!?)和也は小太りの男の死後硬直した手からスタンガンを奪い取り 身構えた。 奥から2人の男が出てきた。暗闇の中で一段と光るバッジが目に映る。 「目が覚めたか。」サングラスの男が話し掛けてきた。 (こいつらは俺を尾行してたやつらだ。) 「君を保護しようとして追いかけていて良かった。」ひげをあご全体に生やした 男が親しみ深く近づいてきた。 「俺の保護を?」(こいつらが俺を狙っていたんじゃないのか?) 「ひとりいた女には逃げられてしまった。」サングラスの男が銃を磨いている。銃口 にはサイレンサーらしきものがつけられている。ここの死体はきっとこの銃で殺され たのだろうと和也は思った。 「こいつらは君に何か聞かなかったか?」 「いえ・・・何も・・・なんで俺は狙われたんですか?」 質問にはひげの男が答えた。 「君は重大な秘密を知ってしまったんだ。それはやつらにとっては非常にリスクの大 きな情報なんだよ。」 和也はかすかにうなづいた。 (やっぱりアレだ!・・・アレに違いない) その瞬間、和也の心に何かがひっかかった。 (とすると、あいつも危険だ。昨日の夜、電車とビルの間であったアイツだ。) 「と、言うことはもう一人狙われている人がいますね。」 和也は冷静に、むしろ感情のないような声でそう発言した。 「そうだ、彼の名前は広田良平(しまりょうへい)。」 別に良平を助けたいとは思わなかった・・・ 人を助けることは昔から苦手だった・・・ しかし 彼を助けなければいけないようなそんな気がした・・・ なぜだろう? 分からない・・・ 和也は2人の男とともに倉庫の外の黒いベンツに乗り込んだ。
夜はすでに明けようとしている。
[0015] [0016] 和也はベンツの窓から外を見ていた。 (・・・静かだな。なにかこの静かさはいやだな。嵐の前のって言うやつか?) ふと、とおりに見覚えのある少年の姿が見えた。広田良平だった。彼は急いで走って いるようだった。まるでなにかから逃げるように。 「下ろしてくれ、奴がいる。良平だ。」 和也はそう叫ぶとベンツのドアを開け、良平のほうに向かっていった。 (あいつには一度逃げられたからなぁ、また逃げるのかな?) 和也はそう思ったが、以外にも良平が親しそうに話し掛けてきたので一瞬戸惑った。 「久しぶりだなぁ、ところで、聞いてくれよ。」
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「これがあの夜から俺がした行動だ。」 良平は、自分たちを取り巻く巨大な陰謀に驚愕した。そして、思わず和也に尋ねた。 「じゃぁ、その秘密っていうのは?・・・」 「あぁ、そうだ。しかしやつらはまだ俺らを殺しはしまい。あれは俺らの街、神瞑町 の人間にしか解けない謎を抱えている。」 「確かに、でもこのバッジの奴らは信用できるのか?」 良平は和也にバッジを見せながらいった。50m程後ろには彼らのベンツが止まって いる。 和也も同じことを考えていた。殺されたやつの手に握られていたバッジ、あいつらも 安全とはいえまい。 「逃げるぞ。」 突然和也は良平の手を引っ張り、走り出した。別に良平を置いて逃げてもいい、和也 はそう思ったのだがつい、そうしてしまった。男たちは不意を突かれた。スタートに 出遅れた。和也と良平は細い路地のマンホールの中にすばやく滑り込み、急いで蓋を 閉めた。男たちは和也と良平を見失ったようだった。しばらく話し声、足音が聞こえ たが、やがてかすれていった。
一方男たちは和也と良平を見失ったあと、ベンツのほうに引き返していた。 「取り逃がしたか。」 「まあいいだろう。このまましばらく自由にしといて謎を解かせるのもいい。」 「そうだな、すべての謎を解いてもらった後にもう一度捕まえればいいな。」 やがて男たちはベンツに乗り込み、深い漆黒の中に消えていった。 空には星がきらめいてた。まるでこの街にこれから沸き起こる巨大な欲望と陰謀を見 下ろすように。 〜第二章 完〜 [0016] [0017]
〜 第三章 〜
二人にとって長かった夜も、多大な恐怖と多少の安堵と共に明けた。 二人は、とあるアパートに身を潜めていた。 「でも、こんな簡単なところで泊まっても大丈夫なのかい?」 下水で汚れたシャツを洗いながら良平が尋ねた。 「簡単なところ?まあ、こういうところの方が見つかりにくいこともあるのさ。それ より・・・・」 和也はベットに座り、続けた。 「今までのことを整理してみようぜ。」 シャツを椅子にかけ、良平も向かいのベットに座った。和也はそれを確認して更に続 けた。 「まず、俺達は2つのグループから狙われている。そのバッチの組織、そしてあの女 のいる組織だ。」 「君が廃工場に連れて行かれたっていう、あの組織だね。」 良平は、まだタメ口に出来ないらしい。 「そう。そして奴らに狙われているのは『アレ』のせいだ。バッチの組織は・・・ ・っと、ちょっと言いづらいな。言い方を決めよう。バッチの組織はバッチ組織、女 の組織は女組織だ。いいな?」 「分かった。いいよ。」 「バッチ組織は、アレを狙っているのは女組織だけだと言っていたがそれも信用出来 るものではないだろう。」 「うん、僕もそう思う。現に奴らは人を殺してる。」 「ん・・・っと、ちょっと話は変わるが、お前が神瞑町の出身だって気づいたのは・ ・・・」 「これでしょ?」 良平は手の甲を見せながら和也の言葉を遮った。 「そうこれだ」 和也も同じく手の甲を見せた。彼らの手の甲には数字の「8」らしき文字が書かれて いる。和也はそれを見ながら続けた。 「最初にあったときから何処かで会ったような気がしていたが、こういうことだった とはな。俺もようやく忘れることが出来そうだったのに。」 二人の目には悲しみや怒りを越えた何かが浮かんでいた。 「まあいい、話を戻そう。俺の体験したことはそんなもんだ。だがお前も・・・・」 良平も気を取り直して話した。 「そう、僕は『純』という男が死んでいた、いや、自殺に見せて殺されていたところ を見たんだ。そしてそいつの手には・・・・」 良平はポケットからバッチを取り出し、続けた。 「このバッチがあったんだ。」 良平は和也にバッチを投げた。キャッチした和也は、それを観察しらがら言った。 「これは間違いなくあいつらのものだ。まあ、バッチがあったからといって100% 奴らが殺した、とはいえないだろうが、怪しいことは確かだ。」 和也はバッチを良平に返し、続けた。 「問題はその『純』とかいうヤツがどうして殺されなきゃいけなかったのか、だ。」 「うーーん、そうだよね。僕に似てるヤツが死んでるってのは、なかなか変な感じ だったしね。」 良平は場を和ますために軽いジョークを言ったつもりだった。しかし、和也は難しい 顔をしている。 「笑えないかな・・・・?もしかして、怒った?」 和也はガバッと立ち上がり大声で言った。 「そうか!!!」 良平は条件反射でビクッとして、 「あああ!ごめんなさい!!」 と謝っていた。 「何謝ってんだ?」 「えっ?僕のジョークがおもしろくなかったんじゃ・・・・」 少し涙目になった良平が言った。和也は首を傾げて続けた。 「はーーー。バカか、お前は。そんなんじゃねーよ、分かったんだよ。純が殺された 理由が。」 「え?」 良平は、少し安心したのと驚いたのが一緒になって少し混乱している。 「考えれば簡単なことだ。純がお前に似てるからだよ。つまり、お前と間違えたって ことだ。捕まえてアレの謎を聞こうと思ったら人違いだった。しかし、顔を見られた からには生かしておけかった。そんなとこか。」 「な?それじゃあ、純は僕のせいで・・・・?」 良平がそこまで言いかけたとき、
ドンドンドンドン!!
ドアを力強く叩く音が部屋中に広がった。
[0017] [0018] 良平と和也は黙って顔を見合わせた。和也はそっと立ち上がって、ドアののぞき穴か ら外の様子を見てみた。外には、スーツを着、片手にパンフレットを持った男が立っ ていた。年は見たところ40ぐらいだ。しばらくたっても中の反応が無かったので、 パンフレットを持った男はどこかに消えていった。 「今のはなんだったの?」 さっきと同じ位置にいた良平が和也に尋ねた。 「恐らく保険か宗教かそこらの勧誘だろう。あんな奴らは居留守を使うのが一番 さ。」 「なんだ。バッジ組織か女組織かと思ったよ。それより、今からどうするの?」 「・・・アレが示していた村に行く。これはあの鞄に隠されていたもんだ。読めるだ ろ。」 そういって和也はポケットから一枚の紙を取り出して良平に渡した。 「これは・・・やっぱりあれって神瞑文字だったんだね。」 そういって良平は和也に渡された古代風の文字の書かれた紙を読み始めた。神瞑文字 というのはその名のとおり神瞑町に古くから伝わる文字だったが、日本に漢字が入っ てきたことで廃れてしまい、表面上は消滅していると思われていた文字だった。しか しこの文字は、親から子にひっそりと受け継がれており、現在この文字を使うことが できるのは、ごくわずかの神瞑町(これは昔の名前で今は新名市)の民だけになって いた。 「ええと、しんかいそんのかいじんじゃへ。もしかして神戒村に行くの?」 ドン、バキッ。不意に後ろで音がした。そこには先ほどの男が立っていた。そしてそ の後ろには例の女がいた。 「ちっ、窓から逃げるぞ。ここは二階だから大丈夫だ。急げ。」 そういって窓のガラスを破って二人は下に飛び降りた。 [0018] [0019] 地面に着地した瞬間激痛が走ったが、それからすぐに神戒村に向かって走り出した。 正確な方向はここからではわからなかったがとりあえず新名市の方向に向かうことに した。 興奮状態にあった2人はいつのまにか2階から飛び降りた時の痛みも忘れていた。 (一度でいいからこんなふうに命をかけて走ってみたかった。)途切れ途切れの息の 中で良平は未曾有の満足感に酔いしれていた。 追っ手の姿が見えなくなったところでふと和也が立ち止まった。 「どうしたんだ?」良平がひざに手をついてうつむいたまま話し掛けた。 「ここからタクシーに乗って柳瀬海岸に向かう。」和也が道路で手を挙げタクシーを 探した。 ヤナセ海岸というのはここからだと新名市とは全く反対の方向である海と砂浜の綺麗 な海岸である。猟師なども沢山すんでおり港町としても栄えているところだ。 「え?新戒村に行くんじゃないのか?なら新名市に向かわないと・・・」良平は謙虚 に問いただした。 「まず第一にやつらは俺たちが新名市に向かっていると思っている。第二に柳瀬海岸 に仲間がいる。そいつの力を借りたい。第三にその仲間を含めまだ3000万が手元 にある、有効に利用しなくては。第四に俺はまだ新名市にもどることができない・・ ・とある理由でね。以上だ。」和也はタクシーを捕まえ乗り込んだ。 (3000万か・・・)短い間にさまざまなことが起こっていた良平にとってもはや 3000万などでは驚くことはなかった。タクシーが走り出した。 街頭が目をかすめては消えてゆき、また現れては消えてゆく・・・廃工場の町に目に 見張るようなネオンの光はなかった。時おり見せるパチンコ店の明かりが妙にみすぼ らしくも感じられた。 「バッジ組織と女組織がなぜさっきはいっしょにいたんだろう?」沈黙に耐えられな くなった良平がさっきのアパートにやってきたやつらのことを思い出して話し掛け た。 「さあな、実はひとつの組織なんじゃないのか?スパイがいるとか言ってたけど、実 は情報を共有してるのかもしれない。それよりも寝といた方がいいぞ、明日からきつ くなる。」 (そんなこと言って自分は全く眠るそぶりがないじゃないか) 「でも、どうして『アレ』をやつらは狙っているのかな?だいたい、どうして見つ かったんだい?」 良平の質問にたいして和也はポケットから紙切れを取り出した。 「喫茶店でバッグの中をのぞかれてしまったんだ。それで見つかったんだろう。おそ らく解読まではされてないはずだから神戒村にはきづいてないはずだ。あとは・・ ・」和也が手の甲に目をやった。両手の甲に「8」のような文字がある。これは神瞑 文字で『永遠』を意味する。 「この文字のようなあざのせいでマークされていたのだろう。お前も同じだ。」 良平はふとおかしなことに気付いた。 「ちょっとまってよ。僕はそんな紙切れのことなんて知らなかったよ。なのになぜ狙 われたのかな?」 「さあなもしかしたら神名市の人間を虐殺するのがやつらの目的なんじゃないのか ?」 「・・・・」 答えは出ないまま夜が明けた。 タクシー代は16400円だった。 目の前には朝日の昇るまばゆいばかりの海が広がっていた。 [0019] [0020]
「さてと・・・・」 と言うと和也は砂浜に寝ころんだ。 (・・・・・・・?) 「早く仲間がいるところに行かないの?」 良平は不思議に思い、和也に聞いてみた。 「先にちょっと買うものがあってな。店が開くまでは休んでていいぞ。」 和也は良平を見ずに、そのままの姿勢で言った。 「ふーーーん・・・・。」 良平はそう言うと、和也と同じように砂浜に寝た。 (そういえば、昔もこういう砂浜で寝たことがあったな・・・・・) (いつ行ったんだっけ?・・・・思い出せない。まあ、いいか。) そんなことを考えながら、良平は深い眠りに入った。
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良平は夢を見ていた。和也と二人で洞窟のようなところを歩いている。 「・・・・・・・・・・・・」 和也の口は動いているのだが、声は聞こえない。 「・・・・・・・・・・・・」 良平に更に何か言っている。しかし、何も聞こえてこない。 「・・・・・・・・・・・!!」 和也は何かに気づいたようで、いきなり走り出した。何も分からないまま、 良平は後を追った。 ドン!! 何かにぶつかった。よく見てみると「人」だった。誰かは分からない。 カチャ・・・。 何かの金属音がした。何だろうと覗いてみると、拳銃だった。 「・・・・・・・・・・・!!」 和也が何かを叫んで、良平をかばうように押し退けた。拳銃は自然と 和也の方を向いた。
『バン!!!』
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「うわああああぁぁぁ!!」 良平は飛び上がるように起きあがった。 周りを見渡すと、綺麗な砂浜だった。心臓がドキドキ鳴っている。 「・・・・夢、か?」 妙にリアルな夢だった。こんな夢を見たのは久しぶりだった。 「おっ、起きたか。」 和也が今まで持っていなかった袋を持って向こうから歩いてきた。 「もう行くぞ?」 袋の中のものを確認しながら和也は言った。 「う、うん。大丈夫だよ。それより、何買ったの?」 「まあ、いずれ分かるさ。そうだ、こっち持っててくれ。」 と和也は、さっき買った袋を良平に渡し、歩き出した。良平は急いで後を追った・・ ・・。
・・・・・・・・・良平は高ぶる気持ちを抑えられなかった。 「ここだ。」 和也が連れてきた場所は、洞窟だった。まさに夢に出てきたままの。 「さっきの袋から、懐中電灯だしてくれ。」 「・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・オイッ、聞いてんのか?」 「あ、ああ、ゴメン。はい。」 良平は言われたとおり懐中電灯を手渡した。 「さっきから変だぞ、お前。」 と言いつつ、和也は一人で中に入っていった。 (・・・・・・・・・・) 良平は気合いを入れるために、自分の頬を叩いて後についていった。
複雑な気持ちでいる良平達の数百メートル後ろに複数の人影があった。 その中には和也と良平がここまで来たタクシーの運転手の姿も・・・・・・。 [0020] [0021] 話すべきか話さぬべきか・・・洞窟の奥へ進みながら良平は自問自答していた。もち ろん先ほどの夢のことである。 (やはりばかばかしい話しだろうか?)良平は迷っていた。 洞窟を中ほどまで来たところだろうか、和也が先に口を開いた。 「こっちだ!」洞窟の中に和也の声がこだました。 「いったいここには何があるんだ?」良平が聞いた。和也が近づいてきて耳うちし た。 「いいか、ここには何もない。俺たちはつけられている。この洞窟は出口がたくさん あるんだ。これを利用してやつらをまく。いいか、袋をちゃんと持ってろよ!」 「どうしてつけられてるって分かったんだ?」小さな声で聞いた。 「それはあとで話す。いいか、俺が合図したら走るぞ!」 良平は息を飲んだ。 「今だ!」 良平は少し出遅れたが足元を照らしながら無我夢中で走った。 その時だった。 良平は何かにぶつかった。壁ではないようだ。 「まさか?」良平は夢のことを忘れていた。今鮮明に思い出す。 引き金を引く音が耳に入った。思ったとおり拳銃だった。 見上げるとサングラスをした男だった。不意をつかれて動く事はおろか考えることも 出来なかった。 ただなんで洞窟の中なのにサングラスなのだろうかということだけが気がかりだっ た。 「しまった。逆をつかれたか!」 和也はとっさの判断で良平を突き飛ばした。銃口はやや暗闇の中をさまよったが和也 の方を向いた。 銃声がひびいた。とても乾いた音だった。サイレンサーなんて邪道だ。銃の本当のす ばらしさとはこの銃声にある。洞窟全体に響き渡った。暗闇の中でも良平の目には鮮 明に血の色がうつった。 [0021] [0022] 和也は声もあげずに倒れた。玉があたったのは肩のあたりだろうか、血がにじみ、ど んどん流れ出してきている。男は銃口を良平に向け、一歩一歩近づいてきた。良平は 動くことができなかった。 「茶番劇はここまでだ。」 そういって男は持っていた銃のトリガーに指をかけた。 良平は目をつぶっていた。人は死を覚悟した瞬間、今までの出来事が一瞬のうちに走 馬灯のように見えるという。良平も走馬灯を見ていた。しかし、銃声は聞こえない。 良平は恐る恐る目を開けてみた。目の前には男が倒れていた。死んではいないらし い。突然後ろから声がした。 「もう大丈夫よ、広田良平君。」 良平は後ろを振り向いた。そこには良平と同じぐらいの年の少女が立っていた。どこ かであったことがあるのかもしれない。でも思い出せなかった。 「きみは・・・?」 「それはあとで説明するわ。それより和也の傷を治さないと。」 「でもどうやって?」 その少女は和也のほうに歩み寄ると、傷に手をかざした。血は止まり、傷はまたたく 間にふさがった。 「傷は治ったわ。これで大丈夫ね。」 和也は気を失っていたようだが、本当に傷は治ったようだった。 少し落ち着きを取り戻した良平は、その少女に尋ねてみた。 「君が、和也が言っていた仲間なの?」 「ええ。私は乾(いぬい)風花。あなたたちがこの男たちに襲われることが見えたか ら来たの。」 「見えた?」 「ええ、私には物心ついたときから力予知能力や治癒能力といったようなものがが あったの。だからここに助けに来た。」 「じゃあ、こいつらを眠らせたのもそんな力?」 「いいえ、私にはそんな力は無いわ。私が使ったのは麻酔銃。でもあなたからは不思 議な力を感じる・・・」 良平はあの予知夢を思い出した。 (俺にもそんな力があるのかもしれないな) そのとき、和也の意識が戻ったようだった。 「風花か、おまえが助けてくれたのか。」 そういって和也は起き上がった。まるで先ほど銃で撃たれたとは思えないほど元気 だった。 「風花に会いに行く手間が省けたな。それじゃあ、次は神戒村だ。」 そういって、三人は洞窟を後にした。 洞窟の入り口では男たちが倒れていた。恐らく風花が麻酔銃で眠らせたのであろう。 良平は不思議でならなかった。こうして、今出会ったばかりの風花が何も言わずに仲 間になってくれたことではない。こうして、三人で神戒村に向かっていく事は以前に もあった気がするからだ。 (なんだろう。これがデジャ・ヴというやつかな。) 三人は神戒村へと向かっていった。 [0022] [0023] 「さてと・・・・やっと着いたな。」 「ええ。」 「そうだね。」 3人は神戒村の正門に立っていた。タクシーなどでは危険になる可能性があったので チャリを盗んだり、車を盗んだり、その他ここでは書けないことまでやってようやく 辿り着いた。 その行為に良平だけが驚いていたのは言うまでもない。 「そういえば、村の人は皆殺しにされてるかも。って・・・・・・」 良平が心配そうな顔をして尋ねた。 「組織の奴らの目的がそうじゃないか、って言っただけだ。村のヤツもそんなにヤワ じゃない。」 和也が答えた。そして、何かに気づくと正門の方を指差し、続けて言った。 「ほら、丁度良い証拠がある。」 和也が指を差した方には何体かの死体が転がっていた。まさに組織の者だった。 「・・・・・・・!!」 良平は言葉を失っていた。 「そんなことより、早く村に入りましょう。和也、あれは持ってきたんでしょ?」 二人の漫才を止めるかのように、風花が言った。 「ああ、ほら。」 和也はバックの中から懐中電灯を取り出し、風花に渡した。 「それじゃあ、始めるわよ。」 と言うと、風花はカチカチを懐中電灯を点けたり消したりし始めた。モールス信号の ようだ。 良平はその光をボーっと眺めていた。 [0023] [0024] すると突然暗闇の中から光が点滅し始めた。恐らく風花と合図を取っているのだろ う。 数回の光のやり取りの後、暗闇から人が現れた。辺りが暗いので、顔がよくわからな い。 「どうぞ、こちらへ。」 そういって道を案内された。15分ぐらい歩いただろうか、案内してくれたものがい うには、どうやら村の入り口にたどり着いたらしい。ここまでの道は入り組んでい て、容易に外部のものが入り込めない、そんな感じだった。 良平は神戒村に入るのは初めてだった。しかしなぜか懐かしい感じがする。遠い昔、 和也と風花とともにここにいた感じがするのだ。 「村長(むらおさ)がお待ちです。こちらのほうへ。」 そういって、三人は村長の館まで案内された。 三人は館に着き、館の中の部屋に通された。そこには、年のころ100歳ぐらいの老 人が座っていた。 「ようこそ、三人の若いものよ、わしが神戒村の村長だ。まぁ、ここはまだ安全 じゃ。旅は大変だったろう。しばらく肩の力を落としなされ。」 村長は低い、落ち着きのある声で言った。 「大まかな話は聞いておる。恐らく、その組織などはこの村の・・・」 「戒神社に奉られている神瞑の玉(ぎょく)を狙っているんですね。」 風花が村長の言葉をさえぎって言った。 「左様、神瞑の玉は昔、神瞑町にあった。しかしその力を利用しようという輩が増 え、どうしようもなくなったため、この神戒村を造り、そこで神瞑の玉を守ることに したのじゃ。この玉を利用しようというものには神の戒めが下される、これが村の名 前の由来じゃ。」 「その力とはどういうものなんですか?」 良平は、尋ねてみた。 「神瞑の玉は元は神鳴の玉、つまり雷の玉と呼ばれておった。神瞑の玉の力は雷、も とい、電気を無限に発生させることができるのじゃ。その力を利用しようという者た ちから、この玉を守るために、この村は作られたのじゃ。」 村長はそういうと、茶をすすった。 [0024] [0025] 「神鳴の玉・・・永久機関のようなものですか?」良平が言葉をこぼした。 「さよう・・・これから玉のところまで案内しよう・・・しばらく町の中を見て回り なさい。」村長はそう言うと奥の方へ消えていった。 三人は部屋を出た。 「私は村の様子を見てくるわ。」そう言うと風花はさっそうと館を出ていった。 「じゃ、俺も散歩に行くかな。」そう言うと和也は1人で行こうとした。 「ちょっと待って。」良平は和也を呼び止めた。 「ん!?」呼び止められることを分かっていたかのように和也は立ち止まった。しか し、良平の方は見ていなかった。 「僕たちは・・・なんでこの村に呼ばれたんだろう・・・」 「そんなこと、さっきあのじいさんが言ってたとおりその何とかの玉を守るためじゃ ないの?」 「だから・・・なんで僕たちが呼ばれたんだろう・・・確かに僕たちは神瞑文字を読 めたけど・・・」 「そうか・・・まあ、そのうち分かるさ・・・」和也は少しうつむいてそう答えると 館を出て行った。 「君は何か知ってるのか?」良平はそう叫んだが、すでに和也の姿はなかった。 (何かが頭に引っかかる・・・僕も何かを知っている・・・いったいなんなんだ・・ ・) 良平は館の中を散策し始めた。 (その神瞑の玉を見れば何か思い出せるだろうか・・・いや、思い出せるような気が する。) 良平は館の中で図書室のようなものを発見した。 (永遠に電気を供給する夢の玉か・・・) 古びた本が参列してあった。良平は部屋の入り口に近い本から手にとって読んでみ た。 文字はもちろん神瞑文字だった。良平はすべてを読むことは出来ないがなんとなく意 味はわかった。 『神瞑のかけらに秘められし力・・・』 一冊目の本ではそこの部分しか読めなかった。しかし、良平はそこだけ読めれば十分 な気がした。 次の本を手にとって見た。 『神瞑の光弱まりし時、3つの光が世界を救う・・・』 良平は少し新しい本を見つけた。日記のようにも見えるその本を読んでみた。 『3人の力は強すぎた。力を分散するために彼らの能力を封印することにした・・ ・』 『能力の封印には成功したが副作用として記憶の削除も余儀なくされた・・・』 『彼らの力は必要になった時、解き放たれるであろう・・・』 良平は信じられなかった。 信じないようにそう努めた。 しかし、すべてを計算に入れると事実に疑いようがなかった。 [0025] [0026]
〜 最終章 〜
その夜更け、もう明け方に近い時間といった方がいいだろう、良平は寝床から空を見上げていた。ここ数日の出来事で疲れ果てているにもかかわらず良平の脳が寝ることを拒んでいた。その夜は雲一つなく、月が不気味なほど燦然と輝いてあたりを照らしていた。時々、風邪に揺られて動く草を、月の光がいっそう不気味に見せていた。
(でも、数日前に家出をしたときはまさか自分がこんなことになるなんて思ってもなかったな。)
良平は月とその周りに輝く星を身ながらそう思った。そのときだった。夜空に見慣れない光が現れた。「それ」はしばらく夜空に漂っていたかと思うとふと消えてしまった。
(今のは・・・まさか、UFO?でもまさかな。)
良平は、目の前にたった今起きた光景がこれから先重大な意味をもたらすことになろうとは思いも せずに、いつの間にか眠りについていた。 [0026] [0027] どれくらいの時間眠っただろうか?
もちろん寝ているのだから時間の経過など分かるはずも無い。 しかし、なんども夢を見た。はっきりとそれと分かる夢だった。現実と区別が困難な夢だった。良一は一度も目を覚ますことは無かった。
夢の中には和也が出てきた、直美も出てきた。 今までの経過を振り返るような夢だった。
(もう引き返せない。僕は僕の使命を知ってしまった。僕の中に眠る力、和也と直美にもある力。それを使うときが来たんだ。少しずつだがさっき読んだ本のおかげで思い出せてきた。)
夢の中でそんなことを考えていた。
良一が寝ている間、彼の体から一つの光が抜け出し辺りを漂った。そして、どこかへ向かって飛んでいってしまった。
交差する時間
重なり合う物語
紡ぎ合った謎
結ばれた友情
何もかもが一つのカタルシスへといざなわれていた・・・
目がさめると、良一は懐かしい心地を感じた。 辺りを見回すと、自分の部屋である。何年もかいだ部屋の香り、聞きなれたベッドの軋み・・・まさに自分の家の自分の部屋そのものだった。
(え!?まさか夢オチ?) [0027] [0028] 良平はしばらくベッドの中で天井を見上げていた。
(あれはゆめだったのかなぁ、でもそうとするとはっきりとした、そしてとても長い夢だったな。)
そんなことを考えていると聞き慣れた母加奈子の声が聞こえてきた。
「良平、早く起きなさい、学校に遅れるわよ!」
そのまま寝て手も仕方ないので良平は学校に行くことに決めた。
階段を下りていくと台所のテレビでニュースをやっていた。特に変わったニュースもなく日付も6月17日、家出を考えた日と一致していた。
(やっぱり夢だったんだな、あの出来事は。)
良平はそう思いながら家を出てふと空を見上げた。
空は梅雨時にもかかわらず気持ちよく晴れ渡っていて、天候上は気持ちのいい天気だった。
良平の目にははっきりとUFOが映っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~完~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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