登場人物
モト・パンドール…第何代目か不明の「パンドール」。つまり霊的に受け継がれる人格である。当代は日本に現れた、というだけの事である。
常に現れているのではなく、普段は
モトという名の女子高生である。
エスポワール…日本語で「希望」。逃げ遅れたドンちゃんである。話しの本質に関わるキャラ。ギ神話では「前兆」とも言う。
本来は「先の事が分かる事」は災厄だそうで、それが「希望」につながる。
シン…ザ・傍観者。実際は読者の代理で、描かれる世界はこの男の視点である。
モトを追っ駆け回すが直接的な恋心は(少なくとも初期は)希薄らしい。
ライ…中学の頃から
シンと友人関係になっている男。
ナミ…
モトの友人。
シンとは幼稚園の年少からず〜っと同じ進路の女子。
シンにじゃれ付いてるが、その実、誰でもイイみたい。
ヤヨイ…
モト、ナミの友人。初期重要度は皆無。
ジュスティス…意味としては、「正義・真実」という事にしている。で?
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シンは追っていた。今年同クラスになったモトという女子。その様子がオカシイからだ。
ある日の深夜シンは夜食を買おうとにコンビニへ行ったのだが、怪しい光を通り道の神社の森の中に見とめたのだ。気になって見に行くと−−−
身長3mぐらいの昆虫の様な怪物がいた!誰かと戦っている?気を取り直してよく見るとやけに華奢な体格、女子の様だ。彼はその顔を知っていた!!
「あ…れは…オレ知ってる…ぞ!」−−−それから、シンはモトの事が気になって仕様が無いのである。教室でも、ヒマがあればずっと観察していた。
「フンフン、お前はああいうのが好みなのか。」ライが突然現れた。この男、フラッと現れるのが特技である。
「!!オ、オレはなぁ…」「フーッフッフッフ。」と騒いでいたが、モトの方は既に感付いていた。
「何だろ、あの人は。ず〜っと見てて…ナミ知ってる?」
「ああ?(見る)シンの事?やぁねぇ、アタシに気があるのかしらっ♥」←自意識過剰
「えー?モト見てる気がするなー。ナミじゃないー。」
「ヤヨイ〜(グリグリ)、こうしてまんまと登場人物紹介させられたわっ。」
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ナミ、に似た人 |
ヤヨイ、に似た人 |
昼休み、図書館に入るモト。何となく追って行くシン。特に比較的長い非拘束時間なので、何かやらかしてくれないかと密かに期待をしていたが…
「ほれ行け。」ドンと背を押すライ。
「(どっから湧いた…)な、何の事かな?」すっとぼけるシン。しかし、意を決して直接聴いてみる事にしたのだった。モトの方も、何となく察知している風。
「…あら、何でしょう?(来たぞ)」
「イキナリだけど…おおよそ2週間ぐらい前の夜中、なんだが…神社、あるね。あそこで変なモノを見たんだけど。」モトはずっこけたが復活した。
「ふぅ…ん。それ、が?(汗々)」
「そこにいた人が、あんたソックリでさ。」
「!!…(こ、この人…)はぁ、で、その人が何か…してたのかなぁ。」モトはハッキリ動揺している。
「ん…こんなヤツ(しぐさのマネして)と戦ってたよ。特撮みたいにさ。」
一瞬の沈黙。
「ハァアアッハハハハハハハハ!ぎゃぁあっはっはっはぁあ!!」苦しー、死ぬぅ、死んじゃう〜!
モトは笑った、爆笑した、笑ってごまかすしか無かったからだ。図書館にいた生徒たちは、むしろシンの方に注目した。焦って止めに入るシン。
「そ、そんなに笑う事ないだろ!」(赤面)
「だって変な事を…
ヒー、死む〜、腹が、腹が。何でそんな事、言うの?」
「実はコイツ、いつもあなたの気を引こう引こうとしてたんです。」←ライ。
「(ウ・ウ・ウ・ウソを言ふなっっ!!)」←声にならない。
ライが割って入ったので、結局事情聴取はお流れになってしまった。
「(クスッ)オモシロイ人ね。じゃ、先に戻るから。」
モトには逃げられたが、「シン、手ごたえは充分だ、な。」とはライの評。
「何がじゃっ、バカたれが。」
「ふぅ、言われた通りになったわ、エスポワール。」
「彼は…危険は無い様です。彼はあなたの運命を変える『カギ』となるでしょう。」
「そう、そんな人。あなたの言う事は当たるからね。」
人に見られない様に物陰で、身長15センチ程の人型の「何か」と話すモト。エスポワールというらしい。背中に羽根が生えている、実にステレオタイプな妖精だ。
その意味する所は「希望」である。
「ねぇ、あなた…オカシイよ。何で私がそんな夜中に一人で神社にいなきゃいけない?見間違いに決まってるって。」放課後の教室。モト対シンの対談。
「え…しかし、あの顔は…この顔で…。」
「んー…ねぇ、私とどっちが可愛かった?(ニコッ♥)」
「(だからオマエや言うとろがっ!)…さ、さぁなぁ…暗かったし。」
「
ほぉらっ!暗いんじゃ見間違えるワケよ、ね。(ニヤッ♪)」
「(は…ハメられた)」
「ちょ〜っと、ソコ!なぁにイチャイチャしてんのかしらっ?」ナミが指差しつつ寄ってきた。クラスに一人はいるウルサイ子である。
「
モ〜ト〜ぉっ、くぉらぁ。ガァ〜タガタ言うとって、結局仲良くしてンじゃんねぇ。『あなたぁ〜♪』だってさ、ギャッハッハ。ヤァアン、二人っきりっ♥」←大バカ
「も…違うわよぉナミッ。」
「フッ、やっかむなよナミ。」シン、もう開き直ってしまう。
「アタシは人の幸せがキライなのよっ、キィイ!(言うか?)」
まぁ、そうこうして、シンとモトは本当に仲良しになってしまった。
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シンはお陰でコソコソしなくても良くなったのだが、肝心の「変身」をなかなかしてくれない。そもそもシンが近付いた当初の理由はそこにあるのではなかったか?
モトという女の子は、見かけはツンケンした感じだったが、付き合ってみると妙にガキっぽい側面がある。それがえらく不釣り合いと気になる程である。
そんなこんなで2ヶ月ほど経過した。休日に映画など観る事になった。実際の所シンもオカシイオカシイとは思いつつも、普通に付き合っているのである。
「シィイイイイン。」往来で人の名前を大声で呼ぶ女。「お待っち〜ぃ!」シン腕に抱き着くモト。これでも成績は学年でも上から数えた方が早い所にいるのだが…。
「どうしたの?」
「いいや。(おっかしいなぁ…)」と言いつつ、真っ暗な館内に入る。
「シン、ここ、ここ。開いてる。ほら、隣よ隣…ど〜したの?」
「あ、いいや。いつも通りさ。」まぁ、悩んだってしょうがない。そのうちイイ事あるだろう。なくても可愛くなくない子ーやし、損はないよ…と、モトの反対隣からパリポリと何かを食い散らかす音が。
「ヨ〜。」ライだ!!またフラッと現れた!
「ラ・ラ・ライッ!何でここにいるんだ!?」
「あ、ライくん。来てたの♪」気さくなモト。
「ンン、ン、ン〜、んん(やぁ、おデートかい?)。」
ウソつけ。
−おいおい、映画なんか観てられっかよ、何だこれわぁ−
「面白かったねぇ〜♪」「うん、うん、うん。(もーイヤ)」
と帰宅途上、−パンドール−と呼ぶ声がモトの中で聞こえた。
「!!…シィ…ン、ちょっと、あの、待ってて。あ、あそこ、公園、ね。あとで来るから。」
モト、メチャメチャ焦ってる。
「!…ああ。(変身する…かな?)」
モトはキリッとした顔になって駆出して行った。つ、遂にその時が訪れた!シンはコッソリと後を付けた。
モトは指定した公園内に入った。普段は人の来ない場所で何かの小箱を開いた。中から例の妖精が出て来た。
「何で楽しくやってるのをジャマするの?」明らかにモトはデートを邪魔された事を怒っている。ヒロインっぽく、ない。
「そんな事を言っても…彼まで巻き込むつもり?来るモノは来るのよ。」
モトがいる後ろの空間が割れた!人の様な形の影が現れた。いや、人の形をした闇が空いた、というべきか?
「パンドール、ムダな事はやめるのだ。」
「ムダな…事ですってぇ?」モトは両手を頭上に上げてクロスさせた。それを見ている人間が一人!エスポワールは気付いた。
「私は…遠い昔、あなた達を放ってしまった!私にはそれらを…元に戻す使命がある!」モトの体が輝いて、瞬時に不可思議な服装に変わった。
腰に差している剣?を抜くと、影に斬り掛かった。影は炎となって飛び散った。が、代りに以前神社に現れた様な怪物が立っていた。
昆虫の様な姿。地中にいるセミか何かの幼虫に乗移り、巨大化する様である。戦いが始まった。怪物はモトだけを狙って現れるらしい。
今、シンの目の前でモトはとうとう変身した。やっぱりあの時の女の子はモトだったのか…「見たのですね?!」
「う…うわっ!」
「驚かないで。私はエスポワール、モト…の仲間。今見た事…忘れて下さい。」
「え?」
「そして、モトを嫌ったりしないで下さい。悲しみます。」
モトの事は前から知っている。この、エス何とかはそれを知らない様だ。それにまだ分からない事もある。
「…分かったよ。しかし、いや、そうだ、な。」シンは立ち去った。
モト=パンドールと怪物の戦いは、案外アッサリと決着した。モトが強い…というより怪物が弱い印象である。
「ふふ、あんな使い魔では、私を倒す事は出来ないわよ。」
−聞き分けの無い…望みなら、もっと強い者を差し向けてくれよう。ハハハ…−
「ま、待て!」怪物たちは消失した。「シ、シンの所…行かなきゃ。」
「(モトにあんな素性があったとは…)」ベンチに座るシンの肩を叩く者。
「シン、お待た…へへ、座るよ。」と、モトは崩れる様にベンチに座り込んだとたんに寝入ってしまった無防備な。
焦るシン。戦闘は相当スタミナが必要らしい。さてどうしよう。ドサクサにまぎれて…いや、ちゃんと家に運んで、抱っこして、ああ勝手に手が肩にぃ、
オヤヂ。とかやっていると、
「シン…何やってんだオマエら。(パリポリ)」←ライ。
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とある日の下校途中。今日は一人で帰宅するシン。墓場の裏の竹林の小道を通る。と、何かが駆け寄ってきた!魔物か!?
「シィ〜ンちゃぁ〜ん、何かモトと上手くやったらしいぢゃぁ〜ん♪」早耳のナミ(魔物)は、映画の件などを当然の様に知っていた。
「あ゛?上手くはやっとらんよ。…(変身する事を確認したから)…でもないか(なんて事言うたら、このバカ更に誤解する)…でもないか。」
「はぁ?どっちなの。聞゛がぜな゛ざい゛よ゛(ニヤニヤ)」
「お前には関係無いわい、シッシッ!」
「ヒッヒッヒ、照れなくてもイイぢゃん?じゃあね♪」
と別れた拍子に悲鳴。シンが駆け付けると、ナミに覆いかかろうとする黒い影!
−あ、あれは、あの時の。でも放っておく訳には、えい、どうするか−
「ナミッこら!逃げろ!!」
「ヒヒィ、シン〜、ウウゥ…」気絶した!厄介な女だ!
黒い影はシンの方へ向かってきた。−やばい、取り付かれる!−と、その時、不意に後頭部を何かで打たれて意識が遠のいた。
「シン、ゴメン…」気を失う直前に、確かにそう聞こえた。
シンは気付いた。横でナミがグテッとしている。落ちていた棒で突ついて揺さぶってみると目を覚ました。
「ああ♥シンが助けてくれ…ぐぉら!ヒトをうんこ扱いすンなっ!!フンッ!」
「は?平気か。良かったな。しかし…」黒い影はいなくなっていた。30分ばかり過ぎていた。知らない内に何かが起こった様である。
「ア〜ン、恐いぃ♥シン、送って行って♪」←注※ 誰にでもじゃれます。
「墓場に埋(い)けたろか。」こんな事…もしかして。
約30分前、帰宅するモトの耳にナミの悲鳴が聞こえた。少し前にあんな事があったばかりなので不吉な予感を感じたモトは慌てて声の方向へ駆けて行った。
現場に辿り着くと、シンの周りに例の黒い影が!見られたくないのでシンの頭めがけて念動波を投げかけた。強い衝撃を与えて外傷無く気絶させられるのである。
その後はお定まりの戦闘。ただし今回は敵もサッサと引き上げてくれたので、あまり疲れずに済んだ。
シンが気にはなったが、ナミもいるし、ややこしい事になりかねないので立ち去った。
「という訳なんです。すみません。」エスポワール、こっそりシンの所へ釈明に。
「エス…良いんだよ、そういう事なら。…この前の事も忘れられなくなったな。」
「そんな…。」
「いや、知らないフリはしておくさ。…そうか、これは敵の新しい攻撃じゃないのかな?オレらにモト…パンドール?を襲わせる。」
「そうだと思います。でも、どうやらあなたたちは相性が悪かったみたいです。敵の方から帰って行きました。相性が合わないと、ちゃんと操れないらしいのです。」
「それじゃオレらは運が良かったという訳か。ナミとモトが殺し合うなんてシャレにも…あ、オレもか。」
「一応あなたたちは、これでもう大丈夫だと思います。じゃあまた…それから、私は『エスポワール』です。」
「いや(恥)、ハッハッハ、呼びやすいしぃ。」
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数日後の学校、夕刻前。放課後直前の休み時間に於いて。
「ふぅ、あと1時間で終わりっと…ん?」何気なく廊下から裏庭を見ると!なんとあのライ、女の子と密会中。相手は…ヤヨイ、最初の方でチョロッと出て来たキャラだ。
普段、散々冷やかされてきたシン。ここぞとばかりに…。そうして授業は終わって下校時刻。モト「さ、サッサと帰ってしまおう。シンは…掃除か、チェッ。」
両手を横に、ヒコーキしながらヤヨイが走る。「ブーン、モトちゃーん。」さっと立ち塞がる。「(ん、ヤヨイ?)」
「一緒に帰ろうねー。」
「え、うん。」ちょっと驚いたモト。
「今日は早くて良かったねー、どっか寄り道して行かなーい?」
さてその頃、掃除も終わり教室に残って何やらしていたライを捕まえてシン:
「いやぁあ〜、ライくん。こんな所で一人で何をしてるのかな〜?あ、そうそう…さっき君、裏庭で女の子と一緒にいたねぇ。」ライ、わずかに反応。
「の
わにを話してゐたのかな〜、肩に手なんかかけちゃってェ〜(ニヤニヤ)」
「★%◆〒※◎∇♪¶!!!」ライが暴れた!
「この頃の季節ー、ホント気持ちイイんだよねー。ほらーモトー、コッチの方ー、だーれもいないのー。」
「河原の土手の内側って暖かなのよね…人にも見られないし。」モトは横になった。最近ピリピリしていたせいか、こういう環境で気が緩んだ様だ。
「ふふふ…モトちゃーん…。」ヤヨイの手がモトの首筋に伸びてきた。「ねーちゃん、ええ肌してまんなー。」
「!!!バ、バカ。何してんのよ…ヤヨイッ。はははは。」首絞め。
「ほ〜らほ〜ら、ふふふふふ。」グイッと力を入れて絞めるヤヨイ。
「は、はは…ね、苦し、ねぇ。ホント苦しいって…ば。ヤヨ…!」
ヤヨイの顔は笑ってる。力はますます強まった。
「シ〜ン!!」帰ろうとしていたシンの所へ駆け寄るモト…だが何か変である。読者は知っておろうが、ここにはいないハズ。
「!…え?…何だ??」
「ん?どうしたのシン、探したんだからね。…さ、帰ろ!」
「お…前…モトじゃ…ないな。誰だ?」
それは笑みをこぼし「やっぱり分かりますか。エスポワールです。こんにちは。」
けっこうバレバレの変装だった。触角が生えている。
「…!で?何で君がそんな格好を?」
「ん〜、それが…モトがいなくなってしまったんです。だから…」
「何?…まさか、また!…探そ、モトを。まだ授業終わってそんなに時間経ってないから遠くへは行ってないハズだ。」
「校内はざっと見てまわりました。」
「じゃ、もう外か…」
「ヤヨ…や
め・・・く、る、し…うああ!」
バンッと跳ね飛ばした。「ゲヘッ、はぁはぁ。ヤヨイッ!」
ヤヨイ、既にいつもの目付きではない。「憑かれてる…」
「ナミ、モトを見なか…じゃない、お元気、かな?」
「(シン、私いま変装中ですっ!)」
「はぁ??シン何…見せつけか、お前っ?…ありゃ?モトォ、ヤヨイと一緒じゃなかったの?さっき校門出てったでしょ。」
「え?い、いやぁあ…そ〜じゃないもんね〜。」素〜のモトのマネ、シンの腕に抱き着いてみせる(エスポワールも気にしていたらしい)。
「
ケッ!何よあの触角わぁ。河原の方に行ったのかと思ってたわ。」
ナミを適当に追い立てて「じゃ、シン。そっち行ってみましょうか。」
「(そうか、彼女はこういう時のモトの代り、か)」
河原で対峙するヤヨイとモト。もちろん攻撃など出来ない。
「ああ…ヤヨイ、正気に戻って。」
ヤヨイの体が光りだした。生体エネルギーを物理的波動に変換した攻撃だ。吹き飛ばされるモト。ヤヨイの体も壊れて行く。
「ヤヨイ!やめて、死ぬわ…アアッ!」2発目、3発目…モトは思わず変身した。モトの輝きがヤヨイの波動を跳ね返した!
既に弱ったヤヨイの体、また防御する方法を知るハズも無い。波動のエネルギーが全てヤヨイの体にぶち当たった。
その衝撃はヤヨイを吹っ飛ばし、頚椎を折り、内臓を破裂させた。即死。
「い、いやっ!ヤヨイッ!!」
「エス、コッチの方…あっ!」
「待って…ああっ!」
河原にライがいた。泣いている。腕には動かないヤヨイ…遅かった、いや間に合ってもどうする事も出来なかった。モトはいなかった。
「パンドール…あなたですね、これは。いったい…」
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いま、教室の机が
3つ空いている。ヤヨイの机、なぜかライの机、そして…あと一つ…モトの席に座っているのは…。
あれから数日、モトは学校に来ていない。どこで何をしているのか。
モトは何処とも知らぬ森の中にうずくまっていた。ヤヨイを殺した…死なせた事が相当ショックだった様だ。
もちろん本人の責任とは必ずしも言えないのだが、直接手を下したのは事実である。そんなモトを引き込もうとする闇の力。
「あ…」モトは叫ぶ間もなく不思議な空間へ引き込まれて行った。
「あ〜〜〜!!」ここにも叫ぶヤツがいた。シン、モト姿のエスポワールに引っ張られ、どこぞへと走っている。
「エ、エス!待てって。どこまで行くんだ!?」
「ここまで!!」急に止まった。そこはモトの家の裏の空き地だった。
「…何だい?こんな所、何かあるのか?」
「シン、モトの居場所が分かったんです。ここで待っていて下さい。」
「おいおい、オレも行くよ。」
「残念ですが…人間は入れない所にいるんです。だから私一人で行ってきます。」
「エスポワール…大丈夫なのか?」
「ええ。…やっと、正確に呼んでくれましたね。」
不可思議な空間。いつまでも落ちて行く様な、飛んで行く様な、とらえ所の無い場所。モトの体は流れに弄ばれている。
ふと、誰かが目に入った。知っている顔だ。
「あ…!ライくん!どうして…今度はあなたが…戦うの?もう…」
「いや…違う。これは仮の姿。」ライの顔が豹変した。姿形も変わって行く。悪魔のイメージ、そう形容して良いだろう、そういう姿である。
ライの両腕がちぎれて飛んだ!…いや筋でつながったまま、モトの体に襲い掛かる。驚く間もなく、モトは慌てて変身した。
両腕の筋はモトに巻き付いた。ギリギリと締め上げる。剣で筋を斬る。しかし効果が無い。すぐに再生するのだ。
「私こそが『悪』!!お前が求めていたモノだ。」
「パンドール。意志を持つ者には必ず善と悪が共にある。人はそれらの平衡により成り立つのだ。
つまり、お前の所業こそが自然の理に反する、お前の言う『悪』ではないのかな?」
「な、何…ナゼよ…人は、良くなくては、いけないのよ。」
「自己の道を通す為に、友をも殺した者の言える言葉かな?」
「!!」
「お前の言う事は理想。お前の行動は矛盾。何か言えるか。」
「あ、う…違うぅ、ちがう…。」パンドールの精神が崩壊する…手にした剣が宙に舞う。それを手にする者がある!一瞬だった。
「パンドールッ!」現れたエスポワール、剣を『悪』の胸ぐらに突き立てた!断末魔、『悪』はエスポワールの体を掴み、首をへし折った。
「バカな…私は消える…だが私はどこにでもいる…死ぬ事はないのだ…」その空間から全てが消えた。
空き地−モトが倒れている。シンは抱えて起こした。
−私が帰らなくても心配しないで、モトを頼みます−「分かった…エスポワール。」