−それから−
「ねぇ、モトはどうなったの?ヤヨイだって…ライくんも死んじゃったんだって?気味悪い。シン、何か知ってるんでしょ。ホントに恐いんだってば。」
「いや、ナミ…オレは見てただけだよ。…見てもいない、かな。」
「はぁ、どうせ病院行ってもボ〜ッとしてるだけだもん、モトって。」
普段と変わらない夕暮れの風景。
あれから幾日が経っただろう、相変わらずモトはボ〜ッとしたままである。医者も原因が分からず、サジ投げ状態。
「何か、すごいショック受けたらああなるんでしょ?シン。何か知ってるンなら、お医者に言った方がイイわよ。」
「知ってるなら言ってるさ。(ナミなんかに言えるかい…言うても信じらんだろうけどな。でも実際、どうなってんだか。)」
家に帰る。部屋に入る。机に座り、何か本を取って読もうとするシン…そこに急に!15センチ程のステレオタイプ的妖精が現れた!
「エ…スポワー…!!違う?!何だ、お前は!?」
「フフフ、私は正義と真実の審判『ジュスティス』。シン、モトの事、助けたくない?」
「せいぎ、しんじつ…聞いた事ないな…それより…モトを助けるって??」
「そう。はっきり言うけど、あなたにしかモトを救う事は出来ないのね。一応聞くけど、やる気ってある?手伝ってあげるから。」
「ああ、出来るんならな。」
「分かったわ…じゃ、寝て。」
「なに?」
寝ろと言われるので寝てみたら、妙にリアルな夢を見た。
「夢じゃないのよねぇ。ここはモトの精神空間。まぁ夢と思ってもイイけどねぇ。」
「夢じゃないったって…また変な所だ…うわっ!」
「ヨ〜、シン。」
「ラ…イ、何でここに。確か死んだ…とか、ああ、やっぱり夢だな。なぁんだ。」
「シン…もう。彼って分かり良く言うと、悪に乗っ取られて滅びた残り半分の『良心』って所かしらねぇ。」
「はぁ…そうは見えんがなぁ。」
「モト自身も…あの戦いで精神が分離してしまったの。言わば善と悪かしらね。」
「シン…来たのね。」パンドール(に見えるモノ)がお出迎え。
「そうだ、モトを元に戻す方法だ。具体的には?」
「そう…『悪』のモトを解放する事、かな。人間は善と悪のバランスが必要なの。いまのモトは完全にバランスが崩れてるのね。」
「バランスを正せば…いまのモトも悪くはないが…(ジュスティス・キック!)い、いや、何とかしなくちゃな(蹴んなよ)。」
とりあえず、久しぶりのパンドールに挨拶しようとするシン。しかし握手の手が透けた。
「ここではみんな、実体が無いのよねぇ、残念だけどね。」
「(こんなんばっかか!)じゃ、ジュスティス。分かれた方…悪?はどうなってるんだ?」
「さぁあ、ねぇ。『悪』っていうぐらいだからさぁ、ツノ生えてキバ生えてハネ生えてシッポ生えてんじゃない?」
どうもこの妖精はノリが軽い様だ。むしろ人間的か?そうしていると、虫の様な小さな魔物が集団で襲い掛かってきた。散々にやられた…と思ったら朝だった。
「うわ!!何時だ!?」
「お兄ちゃん寝ぼけてる。今日は休みでしょ!」
「あぁ、そうだっけ…って、
なにぃっ!?
何でお前がここにおるんじゃい?」
「え?何でって…カワイイ妹を忘れたの?」一応、身長は150センチ超。
「お、オレには妹なんかいないっ。」「はい、戸籍。」「う…勝手に妹になってる…。」
「私は正義と真実の妖精よ。ふふふ。」 蛇足ながら、お話自体をひん曲げる力までは、無い。
遅まきながら、後期シリーズはノリが軽い。
「そ、モトの分裂を修復する『カギ』について。それは…」
「れ、ゆにおん、はぁと?」
「そう。モトの分裂の時に生じたエネルギーから生じた副産物。断言は…出来ないんだけど、これが全ての修復に関与すると思ってるのね。」
「じゃ、とにかくそれを見つけりゃイイんだな。」
「んー、まぁ…そうね。」何か煮え切らない返事。
そうして何度か何度か同じ様にモトの精神空間へ出入りする事になった。ヤヨイにも遭遇した。やはり成仏?出来ないでいる様だ。
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「ねぇジュンちゃん。シンってば最近寝不足気味?何してンの?」ナミにとってもジュン(ジュスティスの和名)は妹という事になっているのだ。
「寝れば治るのにね。添い寝でもしてやろうかな。」ナミとは気が合う。
「危険よ。いくら妹でもあの男、特に今『発散相手♥』がぶっ倒れてるからさぁ♪アレがアレしてぇ、ああなるのよ。(ニヤニヤ)」
シンが追い付いた。「
ふざけた事を言うなっ。ジュ…ン、ほらっ。」ナミとは別れた。
「(アタシの出番が少なぁ〜いっ!!)」←ナミ
また夜が来た。モトの精神空間へ入る2名。
「う〜む、ホンマ寝不足だ…おお、ライ。レユニオンハート知らんか?」
「いんや〜。」
「う〜んむ…お、あんな所にモトが。ああ!本人に聞いてみよう、あ、あの…」
しかしその時!
「グレート…ジュスティス…キーック!」
なぜかジュスティス、シンにキックを見舞った!シンの後頭部に炸裂!
「はっ!!」シンは目を覚まし…させられた。ジュスティスがニヤニヤして部屋の片隅に立っていた。
「ジュスティス…お前さっき、起こした…よな?」
「え、へへ。学校の時間だし…。」既にジュンにチェンジ済み。
「ふぅん。じゃ、しょうがないな。」シンには含む所があったが、何も言わないでおいた。
さてその夜。「ふぅ〜、夜か。さぁてジュン、またモトの所へ行くのかな。」
「あ、今日はねぇ…私の、そう…エネルギーが無くて…連れて行けそうになくて、ねぇ。だから…」様子がチョ〜おかしい。
「ジュ…スティス、何か隠し事が無いか?オレに。」
「隠す…言ってる意味が分からないわね、ふふっ(ヤベ)。」
「ふん、ならイイんだ。久しぶりゆっくり寝るさ。」
「(ちょっとモトの反応が鈍いのよね…)」
補足:結局、その夜に見た夢はモトの事だった。
もはや悪夢!
「おいおい話そうと思ってたんだけど…」ジュスティス殊勝な顔。
「レユニオンハートは、パンドールが持っているのよ。でも彼女は使わない。だからシンに取ってきて欲しいの。」
「(コイツわぁ…)どうも要領が分からないな。ちゃんとホントの事を教えろよ。」
「まぁ、道々話するから…ささ寝て寝て。」
シンは寝た。ジュスティス添い寝。精神空間へ到着した。遠くの断崖の様な所からこちらを眺めているパンドール。
「パンドールは、自分の使命が終わったという事を自覚出来ないでいるのね。そう、『悪』を放った事…天の思惑だったのに。」
「はぁ…重い話やな。本来はもういなくて良い…という事は、モトが元凶?」
「60点っ!惜っし〜い。」
ノリが軽い。
「…だったらちゃんと教えろや。」
ライ「そうして我々も…ここに封じられてしまった…」
「(急に出て来るな!)…でも、アイツは実体が無い…どうやって消せば良いんだ?」
「シンの『愛』かしらね…怒んないで(汗)ふふ、私も色々考えてんだけどね。ま、シンに期待する事、大だからねっ。」
「(コイツ無責任だよな。)」
その時、モトの精神空間が大きく揺れた。
「シン、兆しよ。モトの押え込まれていた自我が反応した…!!」
ヤヨイ「シーン…モトってーあなたに反応してるー。」
「(アンタも急に…)オレに?」その時、なんとパンドールが襲い掛かってきた!?
「ジュスティス、邪魔を…!!」パンドールはジュスティスを狙っている???
そこで目が覚めた。もう登校する時間だ。
「ジュスティス!何だアレは!?」
「ま、待って。私も想定外なの。」
「ホントかぁ〜?」
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今日も今日とて、また精神空間へ。
「ふぅう、やれやれ。ジュスティス、あと何回来ればイイんだ?」
「ふふっ、シン。今回でオシマイかも知れないわねぇ。ほら♪」
「ん?ああっ!!」地面に見えていた所がムクムクと盛り上がり、人の形になり…モトになった!ちなみに服は着ていません。
「裸…ですよ。」
ナゼか丁寧語になる。
「おキライですか?それは幻影。今更だけど、私たちもモトの幻影なんだけどね。意志を持った、ちょっと変わった幻影。それが…シン!気を付けて!!」
「シン…」パンドールだ!「やってくれたわねシン。モトを起こして…」
「あっ!オレは、今…気が付いた!
モトと、パンドールは…別人!!…ジュスティス!」
「そう、今まで見てたあの人はパンドール。いま湧いてきた裸がモト…キャッ!」
「ジュスティス!謀ったわね。あんたが…」ジュスティスを攻撃せんとするパンドール。
「うわ、やめろ!」シンはパンドールの腕を掴んで制止した…触れる事ができた!
「ど、どういう事?!あなたは幻影のハズ。」
「ホントだ。前は透けてたのに…」
「モトの精神が強まったわ。相対的にシンの実体度合いが向上したのね。いよいよ最終段階だわ。」
「神」なるモノは、人間に知性を与えた。自らを認識させる為であり、認識が無ければ神はいないからである。「悪」を認識出来た時点で、サルと人間の境界が出来た。
そもそも「善」と「悪」とは相対的なモノで、どちらが欠けても成立しない。「善」を知る為には「悪」が必要なのである。
さて、その「悪」だが、人間にとっては辛い事も含んでいる。たとえば「死」。しかしこれは自然のサイクルの一環である。
実はイヤな事を「悪」にしたのは人間なのである。
「希望」が残った訳−その前に、なぜ「悪」の入った入れ物に「希望」があったのか。そもそも「希望」とは人間の主観である。
実はそんなモノは入ってはいなかった。「希望」は「悪」に相対して人間の心、つまり知性から出たモノである。
「私、『正義・真実』も、『悪』に対抗する為に知性が生み出した力。私たちは、概念は一つ(一人)しか存在しないが、全ての人間の中に同時に存在している。」
「こんにちは…」シンの肩に身長15センチほどの別の妖精…いや、知っている!エスポワールだ。
「うわ、エス…何、これは…オレのエスポワール、『希望』か。…じゃぁ、お前は?!」
「私はシンの『正義・真実』。『本心』…かな?分かり良い様に、人間が妖精と呼ぶ形で実体化してるの。
らしいと思ってね。私らを見て『妖精』の形が決まったのかも知れないけどね。
でも、パンドールは、あの戦いで自分の『希望』を無くした。彼女には『希望』しか無かったのに…彼女こそ、最初に『希望』をもった人間だったのにね。」
「何を言ってるの。」パンドールが応えた。「シン…そのモトは違うわ。ジュスティス、何を吹き込んだの?さあ、そこを退いて。その幻影を消すから。」
「ふふ、本物じゃあ…ね。この肉体の主であるモトの意志の形そのモノだもんね。」
「ジュスティス、何を言いたいの?これは私とモトの問題なのよ。邪魔しないでくれる?モトが目覚めたら…」
シンがまた間に入った。「モトが目覚めたらどうなるんだ?」
「あ…う…私とモト…一人…でも一人じゃない…」
「シン、パンドールの様子が変!離れて。」ジュスティスが言うと同時に生体波動でシンは吹き飛ばされた。
「あ、はは、ははは。」モトが笑っている。
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「ひぃ、モト!な、何で動ける…」パンドールが焦る。
「モトが…起きたわ!」
「ジュスティス…モトが危ない!パンドールを止め…イテテテ。」
「シン、幻影だから大丈夫。」
「じゃ、何でオレ痛いんだよ?」
「それだけモトの思いが強いのね…あ、モトが。」
「いやっ、たあっ!」パンドールは腕から波動を放出しながらモトの胸ぐらを突いた。右腕がモトの胸に刺さっている。
しかしモトは全く平気だ。硬直するパンドール。いや、背後からライ、ヤヨイが拘束するのだ。
「…約束、覚えてるよね…私を…返して。」
「ウ、ウワッワアァアアァ!」
モトの手がパンドールの胸に刺さって行く。吹き出す血の幻影。仰け反るパンドール。動かなくなった。
「シン、見て。レユニオンハートだわ。」ジュスティスが言う。ちょうど人間で言う心臓。モトはパンドールの胸から心臓を引きずり出した。
モトはそれを食らった。「食った…のか?心臓。精神(の主導権)がモトに帰って来た、そういう事か?それじゃパンドールは?」
「モトがパンドールを追い出したって事よねぇ。本来のモトに戻るのよ。そしてパンドールは始めの所へ帰る…」
ライとヤヨイに抱えられ、パンドールは天へ昇って行った。
「これで…終わった…の、か?」
「多分、ね!シンが『レユニオンハート』つまり『カギ』だったのかもね、くふふふっ。さあ、起きましょうか。それとも、もうちょっと…モト(注※ハダカ)と遊んでく?」
−それから−
現実世界のモトは目覚めた。多少ガキっぽいのはパンドールに抑圧されていたモトの精神に影響されての事だったらしい。今のモトは多少ガキっぽい。
ある日の登校時間、シンの後ろから−
「シーン!夢みたよ、シンの。」やっぱり腕に抱き付いた。
シンの方はモトの裸見っぱなしだったので、顔を合わせるのがこっ恥ずかしい。
「あー、モト…退院したんだな、良かった。」
「モォトォ、良かったねぇ。アタシも出番無くってどうしようかと。」ナミも相変わらずだ。一つの話が終わった。
「ん、私?もう少しこのままでいようかしらねぇ。ふふっ。」
それは、まだ二階に住んでいるのです。
−大団円−
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初出: 1984 年 8 月 / 1995 年 2 月。何かのアニメ等、関連はありません。
パンドール・こぼれ話
この作品は、本誌セトグール、第1部3〜6号、第2部64〜82号に、飛び飛びで連載された同人誌マンガである。
この話は、本来のギリシャ神話から離れた所で展開して行く事になる。
マンガ版では省略されたエピソードも後付け追加。やぁね、宣伝文句♪
パンドールは「第1部・悪を倒すまで」と「第2部・悪を倒して」の2シナリオがある。
ちょうど、横でヘロヘロ飛んでるのが、第1部「
エスポワール」、第2部「
ジュスティス」と見分けが付く。なお「ジュスティス」の意味は、ちょっと誤訳。
実は、もう一つ「読み切り版」が存在する。ヘロヘロは「エスポワール」という名だが、容姿が全く違う。
せっかくなので、ここで「
プレザージュ(前兆)」とでも改名しようか。マンガ自体も、本編以前に描いた前兆である。
第2部は、なんと1回につき2ページのみという、ふざけ過ぎた連載形式だった。
全部で11話もあるのだが、ページ数にしてたったの22ページ!!バカな。
第2部の話の流れがヘニョヘニョなのも、2ページずつ描いていたから。
また第2部には「夢オチ疑惑」がある。判断は任せる。
何で関連名詞が仏語なのかと言うと、単に仏語の辞書が手近にあったからである。
どっかに書いてるが、何かのアニメには関係無し。キャラの名前や雰囲気が似てるみたいだが、こちらが先である。でも第2部は似せて描いたよ。
一応、
デビルマン風にしたい旨を書かれていた。友人が最終的な悪の親玉…でもワシ読んでなかったのにな、マンガ版は。
第2部の方は、内面に走るという、その時期のスタンダードな作りとなってゐる。良く考えると「寝てるだけ」なんだもんな〜、こんな話描いちゃダメだよ。
第1部も第2部も、描き始めは士気が高かったが即座に萎え、何とかして終わらせようとしている。第1部は6話程度のプロットで4話しか描いてない。
「
ナミ」は、本編では通りすがりのキャラで、こんなに顔出ししていない。第1部をちゃんと描いていれば、この通りになったかも知れない。
パンドラとは「
pan 全て+
dora 与えられた(者)」という意味。
ギリシャ神話を生かしていない。ゼウスもヘパイストスもヘルメスもな〜も出てや来ぬ。
最初に描いた時、全っ然知らなかったからだよ。変に知ってたら、第2部なんか
モトを
シンが冥界へ連れ戻しに行く話だったかもね。
(とゆか、そういう話になっとるじゃんか。)