曇りのち晴れ・作上野貴子 本文へジャンプ


曇りのち晴れ・・・・・エッセイ集

  
毎日の日記とミニエッセイで綴った句集・・・・・・2月の章

シュークリーム

シュークリーム

 

シュークリームと言えば、手作りケーキに憧れ、お菓子作りの本を開き、可愛い写真つきのレシピを見ながら、どれだったら自分で作れるかと考えあぐねていたまだ女学生の頃を思い出します。あの頃からもう数十年の月日がたってしまいました。まず最初にチャレンジしたのが、確かマドレーヌだったと思います。小さなケーキの型を揃え、お休みの日の午後に四苦八苦しながら、何とか焼きあげた覚えがあります。次に出来たのがスポンジケーキ。案外大作だったのですが、クリームのデコレーションで出来上がりの具合を旨くごまかせたものでした。その後はクッキーやパウンドケーキ、色々とレパートリーを増やしてはいたのですが、四十歳を越える今の今まで、どうしてだかシュークリームだけは上手に焼けないままでした。ところが、そのシュークリームが、やっと上手く焼けたのです。ジュウの皮の具合もこつを得たのか、程よく膨らみ、カスタードクリームにいたっては、手際よくとろけるように上手くいき自分でもどうしたことかと驚いています。まだ女学生だった頃から憧れてきたシュークリームが、やっと美味しく焼き上がったのです。香ばしいその姿は私にはまるで琥珀色の宝石の輝きのように見え、食べてしまうのがおしいようでした。それでも思い切って口にほうばると、味もバッチリ!大満足。これで私の楽しいお菓子作りのレパートリーに、とうとうシュークリームがひとつ加わったのです。


花菜漬

花菜漬

 

暖かい房州あたりでは、2月にもなると早くも菜の花が咲き始めます。そして、この菜の花と葉とをー緒に、そのまま塩漬にした『花菜漬』と呼ばれる古くからのお漬物があります。京都などでも、たいへん好まれているようですが、菜の花の名産地である房州ではー早く野に咲き始めるので、立春を過ぎると、菜飯とほとんど変わりなく春の訪れとともに味わうことが出来ます。菜の花にまつわる有名な句に『菜の花や月は東に日は西に』という蕪村の句がありますが、黄色い菜の花が、畑―面に咲く丘を日が西の空に傾くころ、すでに反対の東の空には大きな月が登り始めているという景をみごとに読まれています。この菜の花を摘んで、そのままつくることが出来る簡単なお漬物が花菜漬。暖かいご飯にのせると、黄色い花の色と葉の緑色が美しく味も絶品。思わずー句捻りたくなる、そんな美しい季節の味そのものでしょう。


  

白梅

白梅

 

今ではすっかり少なくなりましたが、私がまだ子供の頃には、お正月から旧正月の2月の梅の頃まで、閑静な町並みから朗々と百人―首を詠む声が聞こえて来たりしました。この百人―首のなかで、さくらよりむしろ多く詠まれているのが梅の花です。梅の花は、奈良時代に中国の唐から伝わって来たと言われ、万葉歌の中の梅は、ほとんどが白梅で、紅梅の歌はー首もないとされています。このことから考えても、紅梅は万葉以降に伝えられた品種であろうとされているようです。『梅は咲いたか桜はまだかいな』と言いますが、白梅が咲き、紅梅が咲き、やがて桜の季節を迎える。千葉の田舎にも、俳句の仕事が始めて来た時に植えた梅の木の記念樹があります。毎年2月になると、小さな莟がほころび始める頃です。よく晴れた日の浮き雲よりも白くほのかに香る美しい白梅の記念樹は、都心に嫁いで来ている今でも、私の大切な心の宝物です。