曇りのち晴れ・作上野貴子 本文へジャンプ


曇りのち晴れ・・・・・エッセイ集

  
毎日の日記とミニエッセイで綴った句集・・・・・・3月の章

春のテラス

春のテラス


3月になると、あちらこちらから春の便りが聞こえて来ます。その声に誘われるように、季節の先取りとでも言うのでしょうか。早めにさまざまな種類の草花が園芸店や町の花屋さんなどに出回ります。以前ならパンジーの季節といえばやっとこれからだったのが、最近は3月も半ばになる頃には、もう終わりの時期を迎えてしまい、簡単に購入することが出来ないくらいです。世田谷辺りでも今ではすっかり都市化が進み、蒲公英や土筆、菫やぺんぺん草と言った春の草花は殆ど見かけません。都心に住んで居ると、ともすれば季節の移り変わりにまったく気がつかないうち時が過ぎてしまうことさえあります。そんな毎日の暮らしに、四季の移ろいを知らせてくれるのが、小さな窓辺のテラスです。冬枯れた町の木立ちへ、どこからともなく小鳥が舞い降り、白いテラスの朝に春を運んで来てくれる。何時の間にかチューリップがはやばやと咲き始め、さながら雑誌のグラビアのような暖かな気持ちにしてくれる。はやりのミニガーデンで寛ぐー時は、春の柔らかな陽射しをいっぱいに感じることが出来、とても幸せな気分です。とうとう思い切ってベランダのテラスに、真っ白な椅子とテーブルのガーデンセットを揃えました。マーガレットやチューリップの花の揺れるテラスで、入れ立ての珈琲を戴く。都会の春をテラスで味わう。遥か彼方の大自然から勇気と元気を授けてもらい、都会のマンション暮らしの私にとってのほんのささやかな贅沢。これから毎日、新しいテラスでのガーデニングが楽しみです。


星の瞳

星の瞳

 

春の声を聞くか聞かないかのうちに、日本全土の道端や畑地、都会ではふとした狭い空き地など、至る所に柔らかな陽の光を楽しむかのように咲く空色のかわいい花があります。俗に「犬ふぐり」と呼ばれるその花は、誰でもが懐かしく、あああの花かと、名前は確かでなくても必ずよく知っている草花です。英名では、バードアイ、キャッツアイなどと呼ばれ、そのコバルトブルーの群生は、世界各国で見られるようです。日本でもこの「犬ふぐり」には、あまり知られてはいないのですが、ロマンチックな別名があります。美しいその色から「星の瞳」。まさしく夜空に輝く瑠璃色の星のきらめきのように咲く花だからでしょう。この花の思い出と言えば、まだ小学生の子供の頃、学校への通い道で、緩やかな丘を下ると田んぼの道へ出る小さな別れ道がありました。丘の上には桑畑が広がり、その周りを葱が囲むように植えられ、その周りにこの「星の瞳」が群れをなして咲いているのでした。早春のよく晴れた大空に、なにか潤んだようなその花の表情は、可憐さに似合わぬ力強い繁殖力で土に根を張り、地面を這うようにして広がり群生していく、健気な野の花の天から授かった不思議な美しさでしょう。咲き始めると春の草花が、順々に土筆だたんぽぽだと錦を織りなし夏がくるまでの間その丘は、春の野の空へと続くお花畑でした。今でも春まだ浅い頃、故郷のその丘の道を通ると、日本の風景とは思えないほどの瑠璃色の花が、こちらを見つめて何かを語りかけてくるようなロマンチックな思いがします。「星の瞳」という和名を持ったその花は、とても可憐で掌に乗せてみたくなるような素敵な花です。

桃の花

桃の花

 

三月三日は桃の節句。女の子の成長を祝う雛祭です。都会の花屋の店頭では、桃の枝が、束にして売られているのをよく見かけます。自然に畑や庭などで美しく咲くのは三月下旬から四月初めの頃で、桃色という親しみやすい色の名前にもなっていて、いかにもあどけない女の子を思い出すところから、雛祭を桃の節句と呼ぶようです。桃の花は中国が本場で、日本には万葉の昔から数々の歌にも詠まれて来ています。桃の節句には、白酒、雛あられ、菱餅など色々なお菓子が飾られますが、大人の女性には、この季節、蛤や栄螺と言った貝料理や、散らし寿司などが喜ばれ桃の花のように頬を赤らめワインでもー杯飲むのが流行のようです。少子化時代のこの頃では、以外と大人の女性の祭にもなっているようです。いつまでも子供の頃の素直な気持ちを忘れずに、桃の花でも活けながら、俳句でも捻ってみるのも、また風流なものです。