おしゃべりケーキ物語・著上野貴子
「あけましておめでとうございます」
と目が覚めると、今年は例年に無くいいお天気。
大晦日から大格闘の末に出来上がっているお節料理を、テーブルの上に乗せ、
「さあ、また新たな一年の始まりです」
お正月と言えば、まずは、お節とお雑煮が決まり物です。
お雑煮の中に入れる切り餅は焼いたもの、汁は関東らしくお醤油味、それに野菜などの具をたっぷりと入れます。
だいたいお餅は二つで充分。御目出度い三ヶ日は、特に縁起を担いで、大奮発して海老の尾頭付きを乗せます。夫婦二人分ですから、たいそうな手間は掛かりません。
それに、日本ならではの三段重ねのお重に、手作りの品を加えて詰めたお節料理があれば、それで、もう、どんなホテルのディナーにも負けないくらいのご馳走です。
それでは、まず、テーブルに並んだ、それぞれを食べる前に、
「お正月ならではのお屠蘇からいただきましょう」
お屠蘇は、その香りを味わう薬膳酒で、何となく厳かないい感じです。そして、又、別の皿には、鯛や鮪のお刺身などの数々。さらに、調理師の夫が腕を振るったローストビーフのオードブル。そして、さらなるおまけに、私の作ったご自慢のオリジナルタルトケーキ。
これだけ揃えば、お正月は、まさしく飽食とでも言うしかありません。お雑煮を出す前に、お腹が一杯になってしまいそうです。
そこをなんとか、腹八分目で、押えておいて、どうにかお雑煮を美味しくいただかなくてはなりません。
「せっかくの、お正月なんですから・・・・」
これは、もう、たまらないフルコースです。
食べても食べてもお正月の料理は尽きません。どうしたら三ヶ日の間に太らずにいられるのか、頭が痛くなるくらいです。
兎に角、我が家では、お正月料理となると、手作りのお煮しめから、市販の紅白蒲鉾まで、毎年食べきれないくらいなのです。
そうして、恙無く元旦から三ヶ日を過ごした後、今年はお正月そうそう、一寸した旅はじめに、千葉の鯛の浦へ出かけました。
すると、そこでの食事が、何と、これまた飽食の代表、いくらでも好きなだけ食べれるという、あの食べ放題のバイキング料理だったのです。
「お正月の旅行だと言うのに、バイキングだなんて風情が無いわ・・・」
そんな、気分の乗らないような、生意気なことを言いながら、私は、ついつい和食はそっちのけで、大好きなお肉料理を、そう、それも、何よりも先に、大きな一枚のロースステーキを食べてしまったのです。
これを先に食べてしまったら、折角、海へ来たのに美味しいお刺身も、お腹が一杯で、たいして食べられません。
かろうじて、帆立の貝殻付きの磯焼きを何とか食べて、どうにか海の味を満喫した気分になって帰ってきました。するとまた、次に私を待っていたのは、新年会の立食パーティーだったのです。 そこでは、今度はステーキばかり狙わずに、おとなしくお鮨を頂くことにしました。
それでもやはり、そろそろこうなると、この時期によくある胃もたれの兆候です。なのに、それにもめげず、何と私は、ビュッフェで焼きたての、ローストビーフを見つけ、どうしたものやら、それを皿に二〜三枚取ってもらい、残さず食べてしまったのです。
ましてや、お調子者の私は、まさしく調子に乗ってか、よせばいいのに、お肉に合せて、赤ワインを何杯もおかわりして飲んでしまったのでした。
「ああ、こんなバカな私、帯が苦しい」
そして、そう、ある日の真夜中、兆候どうり苦しみ喘いで、挙句の果てに、とうとう吐いてしまったのでした。
「最悪です」
なのに、その数日後、私には、もう一つの大パーティーが待っていました。もちろんこれも新年会です。
「さあ、大変」
それでもめげずに、着物など着込んで、いそいそと出かけて行っては、また、たいそうなご馳走を、あれやこれやと頂いてしまったのでした。
もうしかたがありません。胃腸薬を毎日欠かさず食後に必ず飲むしかないのです。
「だって、そのまた数日後には、大切なおしゃべりHAIKUの会の初句会がまだまだ待っているのですから、お医者さ んになんて行っていられない・・・・・」
これだけは休まずに出席しなくてはなりません。
こちらは、いかにもお正月らしく、お鮨屋さんでの初句会で、
「そう胃腸にはこないだろう」
と心配ではありましたが、やはり着物など着込んで、いそいそと出かけて行きました。
どうにかこうにか、この日は、ワインも白を一杯だけにして、お鮨は、量も決まったコースなので、少しずつゆっくりと良くかんで食べ、なんとか大丈夫だったのです。
「まあ、何と贅沢な美味しいお正月だったことでしょう」
それでも、一度胃腸が弱ってしまったので、無理せずに、寒い時期を乗り越えなければならないと反省しています。こんな時は、十五日の小豆粥が、何よりのご馳走なんだと、初めて身に沁みて解りました。昔の人は良く考えたものです。
来年は、いくらお正月料理だからと言って
「出来るだけ控え目に頂かなくては、品が無いなあ・・・」
と思っています。
そうは言っても、来年のことは、来年になって見なければ、解らないものだと諦めてはいますが・・・。
ふつふつと木蓋を鳴らす小豆粥 貴子
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