おしゃべりケーキ物語

本文へジャンプ

新刊「おしゃべりケーキ物語」
著者:上野貴子
文藝書房より刊行


●エッセイ

1お正月料理は控え目に
2トリュフで深める夫婦の愛
3春色のお菓子を求めて
4待ちに待った苺姫の到着
5爽やかな風に乗って青林檎
6枇杷の実る庭で
7南国の甘い贈りものマンゴー
8大地の恵みひと粒の巨峰
9ほくほくのお月見タルト
10梨のあれこれ
11ハローウィンには南瓜のケーキ
12柊の実を灯し




★★★句の抜粋★★★


おしゃべりケーキ物語・著上野貴子


 9ほくほくのお月見タルト

 秋らしい爽やかな風が、頬を優しく吹きすぎる、そんな、この頃。
 いつの間にか、夏は駆け足で通りすぎて、ここ世田谷あたりでも、野に咲く秋の七草が、芒の花や葛の花、朝顔や萩の花、それに桔梗や女郎花、そして、少々解りづらいく珍しい藤袴と、町の片隅や川辺や空き地などにもそれぞれ咲き始めます。
 気を付けて見なければ見過ごしてしまいそうな、秋の草花ですが、その姿は、優し気で、秋の郷愁を思わせます。そんな、七草の咲く仲秋の名月を、この週末に控えた頃、今月のオリジナルケーキは何にしようかと、何時もどおり思い悩んでいると、ふと、商店街の入り口の、あるポスターが目に入って来ました。
 カレンダーのようなそのポスターには、まん丸なお月様に、お餅つきをしているウサギが二匹、お決まりのウサギの餅搗きですが、この二匹のウサギちゃんは、果たして月にいるのでしょうか?と毎年誰もが不思議に思う謎です。

「ウサギがいるなんて、ナンセンスにも程がある」
 と頭のいい才女の方々は、おっしゃるでしょうが・・・・・。
 そんな、昔からの言い伝えとは、誰にもどうにも出来ないものでして、

「あれは、月のクレーターのでこぼこの影です」
 といくら才女の皆様が、声を大にして叫んでも、あらまた不思議。お月見の季節が来れば、あの満月に見える影は、何が何でもウサギが二匹、お餅を搗いている姿でなければならないのです。
 昔からの風習というものは、例えどんなに科学が進歩しても、決して変ることのない不思議なものですね・・・・・。
 そして、そのお月様の、お月見のために飾った、芒の横に並べられているのは、お月見団子の山、そのまた横に美味しそうに並べられているのが、蒸かしたお芋の山です。
 どうやらそれは秋の味覚、薩摩芋のようです。ごつごつとした取れたての薩摩芋をお月様に蒸かして供えてあるのが、そのポスターのお月見の写真なのです。
 そのポスターを見て私は、

「よし!今月はこれだ!」
 と思いました。
 何だかお月見と言えば、お団子に芒とばかり思い込んでいたのですが、確かに秋に取れた野菜やお芋をお供えする風習は、昔は、どこの家にもあったものです。
 紫芋とやらが、この頃では出回っていて、この薩摩芋は少々影を薄めていますが、お菓子には昔からよく使われていて、羊羹やスイートポテトなど・・・確かに和洋問わずに悪くはないお菓子の材料に間違いありません。
 そうして見ると、他のお芋よりも、薩摩芋は、案外と甘みが多いのかもしれません。
 タルトに乗せてお月見タルトというのは、
「なかなか今風で、しゃれてるかも・・・・・」
 今年は、あまりお天気がよくは無いかもしれない予報ですが、お月見は、日本の秋を代表する風物詩。
 秋の味覚の取れたての薩摩芋を、固めに蒸かして皮を剥き、サイコロ状に四角く切って、焼き菓子タルトの生地の上にたっぷりと乗せ、香ばしいお芋の匂いと甘さを、名月を見ながら味わう。
 これは考えただけでも、贅沢な今風のお月見です。
 こんな時には、やはりワインが月の友でしょう。
 地方によっては、その昔、そんな、お供えものを、何と、その土地の子供達が、誰にも見つからないように、こっそりと盗んで食べてしまうという慣わしがあったともいいます。
 何だか面白い昔話です。昔の人達は、なんとおおらかだったことでしょう。
 そんな風習で、子供たちの冒険心や、知恵をやしなっていたのかもしれません。
 今では、誰もが都会暮らしに憧れて、そんな風習とは逆に、お盆やお彼岸には、食べ物を供えてはいけない習慣が、すっかり定着して来ているようです。
 猫や鴉が、夜の間に食べ散らかして、自然に風化するどころの騒ぎではおさまらないようなのです。
 これも時代の流れなのですね・・・・。昔のようなお月見の風景は、少しずつ姿を消して、何時の間にか、もうかなりの田舎でしか味わえないのかもしれません。
 それでも、毎年、秋と言えば、お月見が、この日本の風物詩です。
 どんなに時代は変っても、まあるいお月様は、昼の太陽と同じように、私達の、この地球を優しく照らしていてくれます。
 平成に生きる私達夫婦は、世田谷は三軒茶屋のこのマンションで、ほくほくのお芋のタルトにワインでお月見。と、今年はきめたいものです。
 さてさて今年の十五夜様は、満月が見れる良夜でしょうか?それとも残念ながらお月様が雲隠れで見ることが出来ずじまいでしょうか?
「もう、こうと決めたら、出ようが出まいが、このお月見タルトがあれば、それでいい」
 ささやかな市民は、それでもう幸せです。
 しかもワインがあれば、これまた最高!!!空模様のことは、どうなるものやら皆目検討が付きませんが、そこがまた楽しみ。
 今月のケーキは、お天気の良し悪しにはかかわらず、お芋のお月見タルトです。
 それでは、いつものスーパーに美味しい薩摩芋を仕入れに出かけるとしましょう・・・・・。



                        ほくほくとお月見ポテトの湯気薫る  貴子



 Let's
  おしゃべりクッキング俳句

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お芋のお話

 お芋と言えば薩摩芋ですよね。じゃが芋よりも2倍の食物繊維があるので、便秘解消にきくとされています。しかも、薩摩芋は温めてもビタミンや食物繊維を失い難い野菜なのです。ですから一番よく食べられているお芋の料理は煮物です。大学芋という甘く揚げた御菓子も有名ですが、これは東大の赤門の前の屋台で売られていたものを学生が好んで買って食べていたためにそう呼ばれるようになったといいます。今でも焼き芋やスイートポテトなどと並ぶ人気のお芋料理です。


おしゃべりHAIKUの会(俳句)
 
Let’s おしゃべりクッキング!!!

★★★お芋のタルト★★

お芋のタルトの材料


ビスケット 21Cm型                                          
   バター・・・・・80g

塩・・・・・少々

薄力粉・・・・・160g

砂糖・・・・80g(お好みで調節)
卵・・・・・25g約1/2個     

バニラエッセンス・・3〜4滴 

 

アーモンドクリーム21Cm型 


  バター・・・・・80g

塩・・・・・少々

卵・・・・・80g

バニラエッセンス・・2〜3滴

アーモンドパウダー・・100g            

ベーキングパウダー・・小さじ1/


 デコレーション・・・・薩摩芋数個。杏のジャム適量。

                        
ビスケットの作り方

下準備

●バターは室温で柔らかくします。

●卵はよく溶きほぐしバニラエッセンスを入れます。

●薄力粉にベーキングパウダーを混ぜふるいます。
 ●型にバターを薄くぬるり、クッキングペーパーをタルト型よりひとまわり大きく切り、切
 り込みを入れ型に合わせて敷きます。


作り方

 

1 ボールにバターと塩を入れ、泡立器で柔らかいクリーム状に練り砂糖を2〜3回に分けて加え、よくすり混ぜる。

 

2 そこにバニラエッセンスを混ぜた卵を2〜3回に分けて加える。

 

3 卵が全部混ざったら木べらに持ち替えてふるった粉類をー度に加え、木べらを立て、切るようにさっくりと混ぜる。

 

4 ほぼ混ざったら、今度は木べらを寝かせボールの縁に生地を数回すりつけるようにして充分に粉を馴染ませる。

 

5 しっとりと粉がなじんだ状態で、ひとつにまとめラップに包で20分以上冷蔵庫で冷やして休ませる。


アーモンドクリームの作り方

下準備


  ●バターを室温で柔らかくします。

   ●卵をよくときほぐしバニラエッセンスを2〜3滴入れます。
   ●アーモンドパウダーにベーキングパウダーを混ぜてふるっておきます。

    

作り方

 

1 バターを溶かし練って、塩を少々ふるって泡立器で混ぜ、砂糖を2〜3回に分けすり混ぜ、よく混ざったら、卵をやはり2〜3回に分けてよく混ぜます。

 

2 アーモンドパウダーを加え、泡立器でクリーム状になるまで、充分に混ぜ合わせ生地を作ります。

 

3 タルトのビスケットを型に合わせて敷き、その中に生地を流し入れ、カードで表面を平らにします。

 

4 薩摩芋のサイコロ状のものをたっぷりと並べます。お好みに合わせて、生地との分量を調節するとよいでしょう。

 

5 170℃のオーブンで、約40分金網にのせて焼きます。

 

6 焼きあがったら、アンズのジャムを上にかるく塗り、お芋のタルトの出来上がりです。